村上春樹 柴田元幸 「翻訳夜話2 サリンジャー戦記」
文春新書 2003年7月20日初版
村上春樹と柴田元幸が、サリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の翻訳をめぐって議論し、あわせて村上が本来翻訳に付する予定であった解説と柴田の「キャッチャー論」を収載したもの。
前の三浦の本とくらべて、格段にまともな本である。現場の感覚が常にあって、観念論をよせつけないためで、それは文体といった具体的な手触りから、物語が成り立ってゆく具体的な生成過程のようなものまでを貫いていて、実作者の強みがいかんなく発揮されている。
村上氏も柴田氏も真剣なひとなのであると思う。ふたりともに小説の力を信じている。現在日本で小説を書いているひとの中で小説の力を信じているひとがどれくらいいるだろうか?