J・メイナード=スミス 「生物は体の形を自分で決める」

   新潮社 2002年10月20日


 前と同じく「進化論の現在」シリーズの一冊。発生学と遺伝学の関連を扱った本であるが、その内容自体は専門的でよく理解できないところが多かった。ここでとりあげるのは、その最終章の、本論とはあまり関係のない「還元論者は右へ、全体論者は左へ」という章を考えてみたいためである。
 著者は若いときにごく一時期マルクス主義者だったことがあり、その時は全体論的であったのが、マルクス主義に批判的になるにつれて還元論的な見方をするようになったという。
 そしてこれは生物学研究者には一般的に見られることではないかという。
 ところで生物学において全体論的見方をとるものは左派であり、自己組織化を信奉する傾向があるが、経済学においては「見えざる手」というような自己組織化を信じるものはアダム・スミスのように分類からいえば右に属するという。

 ドーキンスが右派であるかどうかは置いておいても、S・J・グールドはやはり左派なのであろう。
 科学という価値中立的であるように思われる分野においても、その一番根本のところにおいては価値観から自由にはなれないということは大いにありそうなことである。
 自分のことを考えても、若いときのほうが全体論的で、年をとってからのほうが還元論的になってきていると思う。もっとも右派的な全体論から、非政治的個人主義への移行であるから、左から右というわけではないかもしれないが。
 科学における全体論はいわゆる「ニュー・サイエンス」周辺で一番顕著である。かれらは機械論に反対し、アンチ・デカルト派を自称する。これは左である。しかし自然科学一般では、機械論・還元論が圧倒的に優勢なのである。そうするとほとんどの自然科学者が右ということになってしまうのであろうか?