小林信彦 「面白い小説を見つけるために」

   [光文社 知恵の森文庫 2004年5月15日初版 原著「小説世界のロビンソン」は1989年3月初版]


 いわゆる小説らしい小説、前衛文学とかアンチ・ロマンとかでない普通の小説を擁護し続ける小林氏の小説論である。
 わたくしは年に数冊しか小説を読まなくなっているので、この本を読むと、本当に小説が好きというひとがいるのだなあということを感じる。
 生真面目な小説に対するアンチなのであるが、そういう小林氏が生真面目な人なのだから話がややこしくなる。真面目に真面目でない文学をつくろうというのである。
 こういう本はそこに紹介されている小説を読んでみたいという気にさせれば、その使命の9割は達成したようなものだと思うが、これを読んで、「落語全集」と「富士に立つ影」と「瘋癲老人日記」を読んでみたくなった。
 この本の原題が「小説世界のロビンソン」である。ながらく絶版であったのが今回文庫で再刊されるにあたっての題が「面白い小説を見つけるために」である。何の芸もない、そのものの題名である。著者としてはこんな題はつけたくないだろうなと思う。しかし「小説世界のロビンソン」ではまずその内容が推定できない。出版社としては、すぐに内容がわかるようなタイトルにしたいのであろう。本の内容がさんざん小説の芸について論じているのに、その本のタイトルが芸なしではつらい。出版不況というのはそこまでひどくなっているのであろうか?