大晦日から北原謙三さんの「水滸伝」を読み始めた。全19巻の第一巻のまだ五分の一くらいで、前途遼遠であるが、それで思い出して高島俊男さんの「水滸伝の世界」を本棚からとりだしてきた。前に読んだ高島さんのこの本で覚えているのは、恥ずかしながら「英雄色を好む?」という章だけである。疑問符に注目してください。
 ここで高島氏がいっているのは、「英雄色を好む」というのは、純粋に日本製の格言(?)なのではないかということである。少なくとも、水滸伝においては「英雄色を好まず」「色を好むものは英雄にあらず」であるという。しかし、日本だって本当はそうなのではないか?、という。 (吉川英治の)宮本武蔵を見よ!、清水の次郎長を見よ!、木枯らし紋次郎を見よ!、座頭市を見よ!、と。日本だって中国だって、女にだらしない英雄は決して心からの敬慕を受けることはないのであると。
 据え膳喰わぬは男の恥という格言(?)は、本当は据え膳喰うは男の恥だったのだが、いつの間にか今のようになってしまったという話をどこかできいたことがある。
 北方水滸伝はまだ読み始めたばかりであるが、面白い。こういう話は好きだなあと思う。ただ、まだほんの端緒を読んだだけなのに、こういうことを言うのは早計であるとは思うが、この本に欠点ありとすれば、真面目すぎ、ユーモアを欠く点ではないかと思う。
 真面目であることと色を好まないことはどこかで関係しているような気もする。色を好むと人から尊敬されない以前に自分で自分を尊敬できなくなる。自分を尊敬できない人間が英雄になれるわけがない、というのは我ながらなかなかうまい理屈であるように思うのだが、色を好むからこそ自分に自信がもてるという人間もいるんだよな、世の中には。


水滸伝 1 曙光の章

水滸伝 1 曙光の章