3 ロングテール現象

 今朝の朝日新聞の読書欄を読んでいたら、ある書店での売り上げトップが本書になっていた。売れているらしい。
 さて、ロングテール現象。梅田氏があげるのが書籍の例である。本の売れ方をグラフ表示するとする。右端に最大に売れている本を表示し、左端に全然売れていない本を置くとすると、右側の高い山から左端に延々と続く尾っぽがあることになる。この長い尾っぽがロングテールである。店舗面積、在庫管理といった固定費を考えると、書店ではこれらの本をすべて揃えておくことなどできない。しかしアマゾンなどのネット書店ではそれが可能になる。アメリカ最大のリアル書店での在庫が13万タイトルであるのに対して、アマゾンは230万タイトル。そしてアマゾンでは13万タイトル以降の本が売り上げの三分の一を占めるのだという。
 さて、売れない本の著者からみれば一冊も売れないのと一冊売れるのは大違いである。とにかく自分の本の存在が誰かの目にふれることが大事である。可能性としては、そこから何かがおきるかもしれない(実際にはほとんどゼロの可能性であるとしても)。「負け犬」が「未知の可能性」に転じるのである。
 リアル社会においては、8:2の法則が通用してしまう。全体の利益の八割は2割の人間が稼ぐというやつである。そうであるなら、残りの8割がやっている2割のどうでもいい事業など切り捨てろということになる。あるゆる物事において重要なのは少数であり、大多数はとるに足りない、ということになる。しかし、ネット社会ではその常識が逆転すると梅田氏はいう。
 またしても、民主主義の問題である。
 そして、いま述べてきた問題は、わたくしがほとんど誰も読まないであろうホームページをつくっていることの意味にもつながっていく。
 K・ポパーに「世界3」という概念がある。人間の知的生産物のすべてである(ポパーにいわせればビーバーのつくるダムも世界3なのであるが)。おそらく世界には作曲されたまま一度も演奏されたことのない楽譜などは無数にあるであろうし、書かれたまま誰にも読まれたことのない本もまた無数にあるであろう。ポパーはそれが読まれ演奏される可能性をもっている以上は、紙の上の黒いシミではなくて、「世界3」にとどまるという。
 ネット世界は「世界3」の利用可能性を飛躍的に高めるのである。


客観的知識 -進化論的アプローチ-

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