今日入手した本
- 作者: カール・ポパー,岩坂彰
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2013/09/19
- メディア: 単行本
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誰か訳しな直さないかなと思っていたら、書店に本書があった。この新しい翻訳はこれから読むのであるが、題をなぜ「歴史法則主義の貧困」としなかったのかが疑問。それから「解説」で黒田東彦氏が「近年、ポパーの書が読まれることは少なくなり、その影響力は大きく低下したように見える。その最大の理由は、1991年にソ連が崩壊し、主要な論敵だったマルクス主義哲学がほとんど壊滅してしまったことにある」というのも疑問。
ポパーは科学哲学者なのであって、「歴史主義の貧困」とか「開かれた社会とその敵」などは余技というか手すさびなのだと思う。これらは余技や手すさびと呼ぶにはあまりに力の籠った書ではあるが、科学哲学者としての思考がなければ書かれることはなかったものであることは間違いないのだし、科学哲学者としてのポパーは少しも古びていないと思う。本書は「日経BPクラシックス」の一冊として刊行されている。これまで刊行されているものは分類からいうと経済学か社会学あるいは政治学に属するものばかりである。とするとこの「歴史主義の貧困」も政治の問題を論じた人文の書としてこのシリーズに加えられたのであろう。
しかしポパーというのは変なひとで、おそらく一番関心があるのは量子力学における観察者問題とか科学の客観性、科学と非科学の区別といった問題であるはずであるが、その関心からプラトンからヘーゲルまでを平気で切ってしまうのである。プラトン哲学の専門家からみるとポパーのプラトン論などもう箸にも棒にも掛からぬとんでもないものに見えるらしい。
ポパーのいっていることはマルクスの主張は科学ではないよ!ということである。しかしソ連が崩壊したのは、ポパーが「歴史主義の貧困」や「開かれた社会とその敵」を書いたからではない。そしてマルクス主義が一時期非常に大きな影響力を持ったのも、それが正しかったからではなく、それが人の心に火を点ける力を持っていたからである。煽動家としてのアジテーターとしてのマルクスの才によってである。以前(大学教養学部の時)に読んだ記憶によれば本書は全然人の心に火を点けるような方向のものではない。ミネルヴァの梟ではないが、本書はソ連が崩壊した後に読めば、それがいかに問題を抱えた体制であったのかという理解に資するものではあると思うが、その渦中にある人間にはごく小さな影響しか与えなかったのではないかと思う。
だから今読んだほうが面白い本であるかもしれない。