今日入手した本

〈第九〉誕生: 1824年のヨーロッパ

〈第九〉誕生: 1824年のヨーロッパ

 クラシック音楽の歴史のなかでベートーヴェンという作曲家がいなかったとしたら、クラシック音楽というのはどうなってしまっていただろうと考えることがある。実際にはいてしまったのだから、いなかったとしたらなどという仮定には意味がないのだが、全然違ったものになったであろうことは確かである。
 もしもいなかったとしたら今頃はクラシック音楽というのは命脈が尽きていたのではないかと思う。ベートーヴェンクラシック音楽の中に「野蛮」を持ち込んだ。あまりに洗練されたものは枯れるのも早いのだと思う。ベートーヴェンが持ち込んだ夾雑物のおかげでクラシック音楽は随分と寿命が延びた。そちらの方面にはいたって疎いからあるいは理解が違っているかもしれないが、ジャズという分野は洗練されすぎて、もはや文化財として鑑賞するようなものになってしまっているのではないだろうか? クラシック音楽の分野で夾雑物を除いて純粋化しようとしたのがシェーンベルクで(彼はベートーヴェンをとても尊敬していたと思うが)、その運動によって音楽が痩せてくるとまたどこからかベートーベンの記憶が甦ってきて、極端な純粋化への防波堤になるということがおきて、それでまだ細々とではあるがクラシック音楽は生き残っているということなのかもしれない。それにシェーンベルクの作品だって生き残っているのは「ワルソーの生き残り」のような夾雑物に満ちた作品である。
 本書はベートーベンの第九交響曲をその後のクラシック音楽に最大の影響を与えた作品とみて、それが作曲された1824年という時代の中で、それを位置づけていこうとするものらしい。ここでは「野蛮」あるいは「夾雑物」は「ロマン主義」と名づけられているようである。