今日入手した本

 

不可能

不可能

 
 昨日の毎日新聞の「今週の本棚」で三浦雅士氏が紹介していたもの。三浦氏いわく、これは三島由紀夫が自殺に失敗して、27年服役したあと出獄したとすれば、何を思い、何を考えるだろう、という謎にこたえる形で進行する小説で、その答えは「年老いた三島は吉田(健一)になるというのだ」と書いていた。それなら、これはわたくしのために書かれたような小説ではないか、ということで早速買ってきた。(実はもう読んでしまった。感想はいずれ書く。)
 確かに途中までは、吉田健一寄りである(特に「絵空ごと」と「時間」だろうか)。しかし、三浦氏も書いているように、途中からそれが崩れる。単なる後期吉田路線であれば、静的で大して面白くないもので終わるであろう。事実、途中までは吉田ファンでなければ、読まないのではというような動きのない小説である。それが途中から急にハチャメチャになる。そこからが面白い。途中までの「吉田時間論」概説路線から、いきなり、「酒宴」あるいは「航海」あたりの童話的吉田路線へと線路が切り替わる。童話といってももっと血腥いものなのだが。それでも「酒宴」や「航海」のひとを喰った感じをよく伝えている。つまり、後期の吉田健一よりその前のほうが本物なのではないのという批評なのである。
 読んでいて倉橋由美子氏の「ポポイ」とか「シュンポシオン」とかも思い出した。この小説はそれへの批評にもなっている。松浦さんはミステリもたくさん読んでいるのかなというのが素朴な疑問。