今日入手した本

デタラメ健康科学---代替療法・製薬産業・メディアのウソ

デタラメ健康科学---代替療法・製薬産業・メディアのウソ

 
 著者は精神科の医者兼ジャーナリストらしい。まだちょっとしか覗いていないが、第9章「製薬業界のだましの手口」という章などなかなかのものである。最近やたらと製薬会社主催の「○○研究会」「××講演会」というのへの誘いが多い。以前だって月に一度や二度はあったが2月3月は目白押しである。全部つきあったら月の半分は会で埋まってしまいそうである。MRという営業担当のひと(因みに、本書では「彼らは医師をだますために雇われている連中であり、彼らと会いたがらない医師も多い」とされている)に何で?ときいたら、4月ごろから医者を接待することへの規制が強まるのだそうで、そういう研究会とかを利用する方向に舵を切っているのだそうである。それで4月から急にでは露骨だから今からそれを強化しているらしい。その研究会やらの後に「情報交換会」(以前は「懇親会」といっていたのだが、いつのまにかこういう名前になった。懇親ではまずいらしい)というのがあって、食べたり飲んだりしながら情報交換をするわけである。こういう会は好きではないのだが、何しろ八方美人で嫌な顔ができない人間であるし、そのMRさんにするとこの会に担当病院の医者がきてくれると自分の成績になるらしいのである。それで必死の形相で「何とかご出席を」とかいわれると、このひとが飛ばされても気の毒だしなどと思って、3度に一度くらいはつきあっているのだが(数回に一度くらいは新しい知見がえらえることもある)、2月3月はそんなことをしていたら身がもたないので、今から防衛に走らなければならない。外来が終わって医局にもどろうとすると廊下で待ち構えている彼らをいかにうまく回避するか作戦を考慮中。

 1935年より前、医師にできることは限られていた。・・ところが1935年から75年頃にかけて、科学はにわかに奇跡の妙薬をたて続けに生み出す。・・薬だけではない。現代医学から思いうかべるものはすべてこの時期に登場している。まさに奇跡の連続だ。透析法は腎臓を失ったひとの命を救い、臓器移植は患者を死の淵からよみがえらせた。CTスキャンの登場により、生きている人の体内の3次元画像が得られるようになった。心臓手術も飛躍的に進歩する。聞きおぼえのある医薬品はあらかたこの時期に開発され、心臓マッサージと電気ショックによる心肺蘇生法も本格的に始まった。・・集中治療室(ICU)の発想も生まれている。・・この「黄金時代」は1970年代に終わりを迎える。しかし医学の研究はそれで下火になったわけではない。・・今日の医学研究は小さな改善を地道に積みかさねることで前進している。

 わたしは1970年代の前半に医者になった。ちょうど「黄金時代」の最後の時期に医者をはじめ、「地道な改善」の時代を中心に生きていたわけである。いい時代に医者をやってきたということなのであろう。
 しかしその「黄金時代」の対局の治療法であるプラセボ効果の章も大変面白い。

 だが何より考えさせられることがある。プラセボ効果について知れば知るほど、ニセ科学を一概に悪くいえないという思いが湧いてきて板ばさみになることだ。たとえばホメオパシーの砂糖玉にプラセボとしての効能しかないとして、それはいけないことだろうか。・・患者には治してもらいたい症状があるのに、現代医学ではほとんど何もできないケースが少なくない。たとえば腰痛、仕事のストレス、原因不明の疲労感、ごく普通の風邪。ほかにもたくさんある。・・こういう場合に偽薬で対処するするのが非常に理にかなった選択肢ではないだろうか。・・

 本当にそう思う。わたくしの大先輩の先生はほとんどの患者に胃散とビタミン剤と乳糖などだけを処方して、患者さんから名医として慕われていた。