今日入手した本

決められない患者たち

決められない患者たち

 グループマンとハーツバンドという二人の共著。クループマンの「医者は現場でどう考えるか」が面白かったので買ってきた。こういう邦訳タイトルであるが原題は「Your Medical Mind How to decide what is right for you」である。「医療についての考えは一人一人違う 自分にとっての正しいやりかたをどうやって決めるか?」といった感じなのであろうか? この邦題だと決められない患者が悪くて、「ほらどっちにするの! 早く決めなさい」といっているように聞こえないでもない。
 邦題を見ただけで内容がわかるような感じがしたのだが、40ページくらい読んだところではほぼ予想通りである。ちょっと血圧が高い、ちょっとコレステロールが高い、治療するかしないか? それをどうやって決めるのかという話である。先まで読んて見なければわかりないが、患者さんの個性であるとか人生観、人生経験などによって、同じ検査数字でも治療を受けなかったり受けたりするのだという方向の話のようである。確かにそうだと思うが、それなら医者の側の人生観や人生経験によっても治療をすすめたりしなかったりするだろうと思う。それに同じ医者だって若い時と年齢がいってからでは全然違った医療をしてるかもしれない。作家の帚木蓬生さん(精神科医でもある)がどこかで書いていたが、若いころ一番嫌いだったのが呪い師のようないんちきな医療まがいのことをしている輩だったのだそうで、許せないと思った、と。それが今では、呪い師ほどすぐれた精神科医がいるだろうかと思うようになった。西洋医療の方面の精神科医よりもよほど優秀と思うようになったのだという。
 現在の日本だって、癌は治療せずに抛っておけ、いや、やはり癌は治療しなけばいけませんなどという次元の議論がおこなわれているわけである。これが一見、科学的根拠をめぐっての論であるような体裁であるので紛らわしいことになる。論者の人生観が先にあるに違いないのである。どのような人生が望ましいかが先にあって、そこからそれに合致するデータが後から集められる。しかし本ではデータだけが示されて、だから治療すべきとかするべきでないという議論になる。
 本書の後のほうでは、延命をするかどうかといった問題についての議論もでてくるようである。
 
    著者の東谷氏の本はかなり以前「エコノミストは信用できるか」というのを読んだことがあるような気がする。失われた10年だとか、いわれていた頃に、やはり経済学を勉強せねばならんのかなと思って少しその方面の本を読んだことがある。もともと数学と物理学がわからなくなって医者になった人間なので、数学の親戚のような経済学は案の定無理だった。それでこの方面の理解はもうあきらめたのだが、昨今の状況を見ていると経済学というのは学問なのかなあという気もする。近未来では正しいことが少し先では間違っていることになるのかもしれないし、さてでも近未来で何かがおきると少し先が違ってくのかもしれないし、とても物理学的意味での経済法則というのがあるとも思えない。
 本書では、ケインズサミュエルソン、ガルブレイズ、ミンスキー、フリードマン、ベッカー、ボズナー、ルーカス、ハイエク、K・ポランニー、ドラッカークルーグマン、シラー、スティグリッツの14人がとりあげられている。ミンスキー、ボズナー、シラーは全然知らない。ルーカスは名前を知っているだけ。ケインズは主著は読んでいないが、何かは読んだことがある。個人的に関心があるのは、フリードマンハイエク、ポランニー、ドラッカーで、ベッカーは竹内靖雄さんのお師匠さんだと思うのだが、竹内さんは面白いが、ベッカーはつまらない。教養の差だと思う。ハイエク渡部昇一さん経由、ポランニーは栗本慎一郎さん経由、ドラッカーもそうだったかもしれない。クルーグマン山形浩生さん経由、スティグリッツは特に誰経由でもないけれど、何となく正義派みたいでいや。
 個々には知っていても相互関係が今一理解できないので、それを少し把握できれば、と。
 まだケインズのところを読んだだけだが、面白そう。