谷岡一郎「データはウソをつく」(+バルサルタン(ディオバン)事件)

    ちくまプリマー新書 2007年
 
 先日、西内啓氏の「統計学が最強の学問である」をみていて、この本を思い出し、本棚から引っ張り出してきた。ちらちら見ていたら面白く、以前には斜め読みしただけであった本書を通読してしまった。これはちくまプリマ−新書というおそらく高校生あたりを読者のターゲットに想定した本であり、平易に書かれていて2時間くらいで読めてしまった。
 実話らしいのだが、ある学会で「戦後の少年非行の増加は、ハンガーバーの消費量および体格とともに増加している」という発表をしたひとがいたらしい。会場から「それって単なる偶然の一致ではないですか?」という質問がでたとか。谷岡氏いわく、「この発表の先生はたぶん、非行の原因として戦後の食生活の変化を「ひらめいた」のだと思います。そしてその瞬間、自分の仮説や理論に没頭するあまり、他の可能性が見えなくなったような気がします。」 ひらめきに惚れ込んでしまったのだろう、と。
 事実とは何か? 自然科学と社会科学では同じでないかもしれない。理論が現実と一致するかどうかの検証には演繹と帰納の二つの方法がある。そこから例のニュートン力学の話になる。自然科学の理論は未来を予測できる。ニュートン以後ニュートン力学はほとんどすべての現象を説明できると思われていたが「水星の近日点移動」など、わずかに説明できないものが残っていた。アインシュタイン相対性理論ではこれが説明できた。それでポパーはいう。「特定の理論が絶対に正しいことを証明する方法論は存在しない。」
 さて社会科学では? 未来の予測がはずれても必ずしも否定されない。同じ歴史が繰り返すことはなく、天変地異をふくめたさまざまな要因がそれに影響するから、完全な未来予想はなりたつことが期待されていない。それは蓋然性(確実性)の主張にすぎない。
 次がマスコミ批判。この本は2007年に出版されているが、執筆中の2006年夏、次期首相候補をめぐって靖国神社参拝問題が論点になっていたとのことで、マスコミは一斉にこのことをとりあげ、なかでも熱心なのが朝日新聞とNHK。8月15日の終戦の日小泉首相靖国神社参拝をした日、NHKは朝の七時からの75分のうち65分以上をこの問題の報道だけに費やし、イスラエルレバノンの停戦問題などはどこかにいってしまった、と。著しくバランスを欠く報道は、事実のねじ曲げと五十歩百歩である、と。
 ブッシュ大統領(父)はイラク空爆で支持率があがった。ブッシュ(息子)大統領もイラクと戦争して一時的に支持率を回復させた。このようなことでコロコロと変わる世論は恐ろしい。
 都合の悪いことは報道しないことも、事実のねじ曲げである。NHKは受信料をとっているからまだいいが、他の民放や新聞、雑誌は自分で稼がなくてはいけない。収入の大部分は広告だから、放送や記事がみられ読まれないことには広告がとれない。エラソーに政治批判した次のページには、袋とじヌードとアナウンサーの胸の大きさの比較。マスコミは売れる見出しのためなら魂でも売る。もちろん広告主の悪口は書きにくい。
 データの半分以上(本当は7〜8割)はゴミ。日経新聞に載った「日経読者は(就職)内定率が高い」という広告がある。日経新聞を読むのはほとんどが自宅でとっているいるひと。そういう家庭は割合と社会的地位が高い家長がいる可能性が高い。そういうひとは人脈も豊富でコネだってあるだろう。それで内定率が高いのでは?
 事例研究。「一日3杯以上コーヒーをのむひとは、のまないひとにくらべて3倍以上心臓病で死ぬひとが多いことが、○○大学医学部の××教授の研究でわかりました。」 これを批判せよ。コーヒーを飲むひとは砂糖も入れるしクリームも入れる。そちらが悪いのでは? 砂糖が真犯人かもしれない。さらに一杯っていってもいろいろカップの大きさがあるのでは? インスタント・コーヒーと自分で轢いて淹れるコーヒーとは違わない? コーヒーと一緒にケーキも食べてない? など疑問は次々にでてくる。
 あるフィンランドの教授がいった。ネットで瞬時に情報が世界に発信される時代になったというが、そこで発信されるのは「知」ではなく「痴」なのでは? ネットを使いこなすためには能力が必要。1)基礎的な教養 2)リサーチ・リテラシー 3)セレンディピティ(ゴミの中から本物を嗅ぎ分ける能力)
 ここから後、この前引用した学問に向かないひとの話となり、終わりとなる。る。
 
 このような本を読んでいるのは、最近のディオバン事件のためである。これは高血圧の薬であるARB(アンギオテンシン2受容体拮抗薬)の一つであるバルサルタン(商品名ディオバン)という薬の臨床効果の試験で脳卒中や冠状動脈疾患を減らす独自の効果を持つという宣伝をしていたのだが、そのもとになるデータが捏造であるらしいことが判明したというものである。もともと高血圧の治療をしているのは将来におきる可能性のある脳血管障害や冠状動脈疾患の予防のためなのだが、この薬は血圧を下げることによるそれら疾患の抑制効果以外に、この薬だけが持つ独自の抑制効果があるというということを宣伝してのだったが、それがでっち上げだったようなのである。
 まことに恥ずかしいことながら、この事件がおきて数多の報道がなされるようになるまでは、ディオバンという薬がそういう効能があるということで売れていることについてあまり認識がなかった。製薬会社の宣伝担当であるMRさんが来てそういう宣伝をしていたのかもしれないが、どの会社のMRさんも我が社の製品にはこういういい点がありますというに決まっているのだから、たまたま自社の製品に好都合な結果がでたから宣伝しているのだろうと思い、ほとんど聞き流しでまともに聞いてはいなかった。
 わたくしが医者になったあとでてきた画期的な薬としてはCa拮抗剤(降圧剤)とH2ブロッカー(潰瘍治療薬)とスタチン系の薬(高脂血症)がある。抗癌剤などにもあると思うが、外来で使う頻度が高い薬としてはそうである。最近でた糖尿病の治療薬であるDPP4阻害剤が次の候補かもしれないがまだわからない。
 とにかくCa拮抗剤がでてきたときはびっくりした。血圧がしっかりと下がるのである。しかしCa拮抗剤だけでは十分な降圧ができないひともいて、その場合に使うものとして、ACE阻害剤(アンギオテンシン変換酵素阻害剤)などがあるのだが、どうも効果が今一つ(ただしこちらには臓器保護作用という利点があるとされている)なので、ARBを追加する場合も多い。ほかの先生の処方をみているとディオパンを使っている先生も多いので、それである割合でこちらもディオパンを処方していた。別にそれが脳血管障害や冠状動脈疾患を予防するだろうかということではなくて、単に降圧剤の併用薬として使っていたわけである。
 これも最近知ったのだが、ARBという薬がそのような+αの効果を持つという話は欧米からの臨床研究の報告では一切なかったらしい。だから日本からのそういう結果は意外に受け取られていたようなのだが、薬の効き方が人種によって異なることもあるのだから、そんなの嘘だろうというわけにもいかず、眉に唾をつけながら話半分で受け取っていたらしい。
 いろいろな記事などを野次馬的に見ていると、世界のなかで日本の研究者だけが製薬会社とずぶずぶの癒着をしていて、良心のかけらもないことをしている、なんと嘆かわしいことであろうか!、というような論調を感じるが、必ずしも日本以外が清廉潔白というわけのものでもないらしい。
 2004年にバイオックス・スキャンダルというのがあり(米メルク社のCOX2阻害剤が「副作用のない画期的な痛み止め」として発売されたが、実は重篤な副作用があり、被害者は15〜20万人、その内の三分の一が亡くなったにもかかわらず、メルク社はそれを隠蔽し、製品の回収を決定するまで4年間販売を続けていたというもの。多くの訴訟がおき、メルク社は5000億円近い和解金を支払うこととなった)、それ以来、多くの製薬会社が自制をはじめ、またEUでは臨床試験に厳しい制約が課せられることになり、それ以来、製薬会社がスポンサーになっている臨床試験でも、露骨にスポンサーに有利な結果の論文は激減したのだそうであるが(ということはそれまでにはたくさんそういうものがあったということであう)、2009年発表の京都府医大の試験でまだそんなに古典的なことをしているの!、というのが欧米の反応なのかもしれない(とはいっても、慈恵医大の研究が2002年からで、京都府医大の研究が2004年からなので、臨床研究企画進行当時は癒着など当然であったのかもしれない)。
 もっとも有名な医学雑誌の一つである「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」誌の副編集長を20年務めたマルシア・エンジェルというひとが2008年の「JAMA」誌で「医者はもはや、正当な、信頼できる情報を医学論文に頼ることができない」と嘆いているのだそうだから、欧米だって手口が巧妙になり深く静かに潜行しているだけなのかもしれない。エンジェル氏は、特に製薬会社が絡んだ場合の質の悪さを指摘しているのだそうである。
 「週刊現代」の最近の号に「製薬メーカーとべったりの日経」という記事ができている。(谷岡氏は「どう考えてもまともとは思えない週刊Gだの、週刊Pだの」と書いている。どうもすみません。なにしろ袋とじヌードだから。) 思ったより大したことは書いていなかったのだが、日経新聞社では「日経メディカル」という医療専門誌を刊行している。たぶん書店では売っていないと思う。頼みもしないのに医者のところにタダで送ってくるのである。それも週刊誌のような粗悪な紙ではなく、アート紙というのだろうか立派な紙にフルカラーで金がかかってそうな雑誌である。どういうわけかわたくしのところにはこないので(似たような雑誌で「メディカル朝日」というのは来る。ビニールの包装なので、そとから目次が読める。よほど興味をひく話題があるときでなければ、そのまま開封せず、ゴミ箱へ捨てる。森林資源の壮大な無駄遣いである)、内容は知らないのだが、どうもこの「日経メディカル」というのはディオバンを作っているノバルティス・ファーマの宣伝誌のような様相も呈していたらしいのである。週刊誌の記事では「DIOVAN発売10周年記念特別座談会」というのが紹介されているが、それは「ノバルティスファーマ株式会社提供」というクレジットが誌面の隅にあるのだそうである。そう書いてあるのならば宣伝である。そういう座談会にでて、他社の降圧剤をほめるほど日本の大先生も世間しらずではないだろうから、それは当然の世間のつきあいで、別の会社の座談会に出れば、またその会社の薬を誉めるのではないだろうか? わたくしなどはああいう製薬会社提供の記事というのはほとんどワイロの一種だと思っていて、何もないのに金品を渡したらワイロだけれども座談会にでてもらってその謝礼を払うならば勤労にたいする正当な対価ではある。わたくしのような性格の悪い人間は、そういう座談会の謝礼というのがどのくらいのものなのだろうかを知りたいと思うのである(今週号の「週刊ポスト」(またまたすみません)で上昌広東大医科研特任教授がディオパン問題を論じている。それによればそのような講演会や座談会への出演料は一回15万くらいと推定している。意外と安いなというのがわたくしの感想。なおこの記事はおもしろかったので、末尾に要約を載せておく。上氏は「週刊ポスト」でも発言していて、大活躍である)。そして大学のえらい先生ともなれば、一社に肩入れするなどということをすれば変な目でみられるから、全方位外交であらゆるところと均等におつきあいする。だから今回問題になっている論文だっておつきあいの延長くらいの気持ちなのではないかと思う。「今度、N社さんからこういう臨床研究やってくれって話がきたんだ。たっぷりと寄付ももらってることだし、まあ、きみ、あとはよろしく頼むよ」でおしまい。もちろん、自分でデータ解析などはしないし、統計処理もしない。でてきた結果を見るとずいぶんとディオバンがよさそうな結果となっているが、それをあまり不思議にも思わない。そうじゃなきゃ、むこうも頼んでこないわけだしなと納得する。そんな構造なのではないだろうか?
 わたくしが、今度のことで一番問題であろうと思うのは、そういう全方位外交で製薬会社とおつきあいしている先生方が、高血圧治療のガイドラインの作成にもたずさわっていることである。あらゆる製薬会社に均等にいい目を見てもらうために一番いいのは、高血圧治療の基準を厳しく(緩くというほうがいいのだろうか?)することである。130で治療開始と140から治療では患者数がまったく違ってしまう。
 わたくしがこういう問題に興味をもつのは、コレステロールは本当に下げる必要があるのかなということを長年思っているせいでもある。そのきっかけをつくった柴田博氏の「中高年健康常識を疑う」のp83に「総コレステロール値と死因(J−LIT一次予防群)」というグラフがある(出典は「日経メディカル」2001年とある))。血清総コレステロール値と死亡との関係を見たもので、俗にいうU字カーブになる(コレステロールが高くても低くても死亡が多くなる)ことを示したものなのだが、よく見ると変なグラフである。コレステロール180未満からはじまり、180〜199、200〜219と20刻みなのだが、どういうわけか220〜239の次が240〜279とそこだけ40刻みになっていて、あとは280以上となる。棒グラフの幅は20刻みも40刻みも同じになっているから、ちょっと見には気がつかない。あとで別の本を読んでいてそれを指摘するひとがいてはじめて気がついた。なぜそうなっているか? 240〜259、260〜279とすると、一番死亡が少ないのが240〜259となってしまうからなのだそうである。ところがコレステロールは240以下(もっと条件が悪いひとでは220以下)にすべきということを主張したい研究目的からするとそれは困る。だからここだけ40刻みにして、そうすると220〜239が一番死亡率が低くなるグラフができるということなのである。2001年にはこんなことを平気でしていたわけである。
 上の「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」誌の副編集長マルシア・エンジェルの「医者はもはや、正当な、信頼できる情報を医学論文に頼ることができない」という嘆きは、浜崎智仁氏の「コレステロール値が高いほうがずっと長生きできる」からの引用なのだが、そこに、一時総コレステロールではなくLDLコレステロールを測れと動脈硬化学会が指針をだしたのは、コレステロール低値での死亡率の高さの説明に困って、LDLコレステロールであればまだそれと死亡の相関をみたデータはないから、とりあえずそこに逃げ込んだのではないかいう浜崎氏の推測が書かれている。そして動脈硬化学会はその後で、LDLコレステロールの測定はきわめて信頼性に乏しいから、直接測定するのではなく、LDLコレステロール=総コレステロール−HDLコレステロール中性脂肪x0.2というフリードワルトの式で計算せよと、またまた宗旨替えした。0.2を掛けるとあるようにこれは極めてアバウトな数字である。中性脂肪が高い場合には現在のLDLコレステロール測定はまったくあてにならない。だったらわたくしなどLDLコレステロールにくらべてずっと測定感度のいい総コレステロールだけを測定すればいいのではないかと思うのだが、どうもむかしに帰るわけにはいかないらしい。実際に現在の健診では、総コレステロールは測らずに、LDLとHDLと中性脂肪を測っている。それをまた総コレステロールとHDLと中性脂肪に戻し、LDLは計算で出せなどというのは無茶である。しかも中性脂肪が400以上では計算での算出は不能だというのである。言えることはLDLコレステロールの測定というのは相当いい加減なものらしいということである。それならLDLコレステロールの値がいくつくらいから治療を勧めるというようなガイドラインは何を根拠にだされてもなのだろうか? 何だかこのあたりも問題があるのではないだろうか?
 わたくしは日経新聞をとっていないので事実かどうかはわからないが、日経新聞では今回のディオパン事件はほとんど報道されていないとどこかに書いてあった(なお、日経メディカルon LINEというのがあって、それにアクセスできることに気がついたので、見てみたら、この問題は取り上げられていた。特にノヴァルティス社をかばっている感じでもなかったが、やや歯切れが悪い印象の記事はあった)。新聞社というのはどこでも経営が大変らしい。その大変な新聞社がタダで医者に豪華な雑誌を送ってくるというのは、別に日本の医療の発展を祈る美しいこころからではなくて、確実に宣伝をとれる媒体があるのは助かるというだけのことなのであろう。新聞だって雑誌だって広告を載せるための媒体と化しているのかもしれないわけで、確実に広告を打ってくれる企業は大事な大事なお客様であろう。
 しかし、それを日本の医者に大量にタダで送り続けているということは、わたくしのようにすぐに屑籠ではなく、ちゃんと読んでいるいるひともあるからなのだろうと思う。そして、読んで、その内容を信じてその薬を使うひとがいるからなのだろうと思う。ただで送ってくるということは魂胆があるに決まっているわけで、その中に「××製薬提供」とあったら宣伝に決まっているではないかと思うのだが、わたくしのようにひねくれた人間ばかりではないということらしい。わたくしなどは、リサーチ・リテラシーにもセレンディピティにもいたって欠けるところのある人間だと思うけれども、素直でないということにも少しは利点があるということなのだろうか?
 外来がおわって戻ろうとすると、廊下にMRさんがたくさん立っていて、なにやかにやと説明をはじめる。八方美人のわたくしとしては聞いているふりはしているが、早く自分の席に戻りたいと上の空である。これからしばらくは「どうもみなさんの持ってくるデータは信用できないような気がしてきたので、しばらく話をきかないことにします」といって無視することにしてみようか。
 
付録:上昌広氏の「週刊ポスト」の記事の要約
 今回の問題は、原発事故における“原子力村”の問題と同じ構造からおきている。電力会社が製薬会社、経産省厚労省に置き換わっただけで、それに御用学者がまんまと使われている。「原発は安全だ」といっていた学者と、今、製薬会社と癒着している医者たちはまったく同根。
 なぜこれまで不正が発覚しなかったか? 患者を研究対象にしているから。薬効には個人差があり、環境が異なれば結果が同じでなくても不思議ではない。変な結果であると言われても個人差や環境の差と言い逃れができる。
 「民」と「官」がべったりと癒着する背景には、「官」の絶対的な権力がある。日本では中央官庁の役人が医療の価格をすべて一律に決めている(先進国では日本だけ)。薬価を決めている中医協の人事権を掌握しているのは厚労省の技官。それは国会のチェックもうけない。研究費の配分も彼らがおこなう。だから製薬会社も教授も技官にすりよる。
 薬価を政府が決めるので製薬会社は価格競争をするのではなく、医師への営業競争に走る。以前は飲食の接待。最近は製薬協が接待規制のガイドをつくったので露骨な接待はできなくなり、代わりにでてきたのが「奨学寄附金」。これは一見、研究支援のように見えるが、実態は製薬会社の営業経費(大学担当の営業担当者が持っている予算)で、自社製品を処方してもらったら“研究にお使いください”と渡す。新聞社の拡販員が購読の代わりに洗剤や野球のチケットをもっていくのと同じ。そのお金で自社に有利な研究論文がでてれば万々歳。このような仕組みでは、研究結果にバイアスがかかってくるのは当然。
 論文捏造の動機の一つが上記の金だが、もう一つが「出世」。論文が多いと評価されやすく、研究費も得やすくなる。最近、東大で論文の改竄や捏造が明るみにでた。また最近詐欺容疑で逮捕された東大教授は前職が国立国際医療センター厚労省管轄の組織)。そこではそのような不正がばれなかったので東大でもやって、今度はばれてしまった。
 今、臨床研究の「中核病院」や「拠点病院」が作られようとしている。東大や国立がん研究センターなどはそうなっていき、そうすると自動的に予算がおりてくる。公金が動くところでは不正もおきやすい。一方、今回ディオバン事件に加担した教授たちは、そういう公的な予算を獲得しづらく製薬会社のいいなりにならざるを得なかった。(今回、問題になっているのは、京都府医大、慈恵医大千葉大、名古屋大、滋賀医大。)
 予算配分や価格統制権を一部の官僚たちが握ってしまっている弊害が噴出してきている。官僚・大学・製薬会社がつくりだしている「白い巨塔ムラ」の崩壊の予兆を、今回のできごとは示しているのかもしれない。
 

中高年健康常識を疑う (講談社選書メチエ)

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コレステロール値が高いほうがずっと長生きできる (講談社+α新書)

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