今日入手した本

 もうすでに全集は刊行されはじめていたらしいが、知らなかった。これは第二回配本。「文藝春秋九十周年記念出版」とある。
 1)夏目漱石 2)近代小説のために 3)私小説に抗して としてまとめられた評論集。長編小説はすべて収められるらしいが、評論はテーマ別に再編ということらしい。本巻にも「梨のつぶて」からの数編が収められている。「梨のつぶて」は全体として一つの書物として構成されている本かと思うので、ばらして収録するのはいかがなものかと思うけれども、漱石論が「闊歩する漱石」(持っているがちゃんと読んでいない)以外にも「コロンブスの卵」や「星めがね」「星のあひびき」などから一つにまとめられているのは、便利といえば便利。
 現代仮名遣いと歴史的仮名遣いとが混じっているのが奇妙。おそらく同人誌に発表した「エホバの顔を避けて」は歴史的仮名遣いで書いたが、河出書房新社から「書き下ろし長編叢書」の一つとして「笹まくら」を出した時は新進作家として出版社には強いことを言えずに現代仮名遣いで出し、作家としての地位を確保してから再び歴史的仮名遣いに戻った歴史をそのまま反映しているのであろう。吉田健一歴史的仮名遣いで書いて渡した原稿を出版社が現代仮名遣いで出版するというような場合は、オリジナルが歴史的仮名遣いであるから、全集刊行時には原稿に戻すということが正当化されるが、ある時期の丸谷氏は原稿を現代仮名遣いで書いていたので、それを全集に際し、歴史的仮名遣いに戻すわけにはいかなかったのであろう。
 パラパラとみていて、「三四郎と東京と富士山」という文(いままで読んでいなかったように思う)末尾の「漱石は日本をかはいさうと思つてゐた。それが彼の愛国であつた」というのが目についた。
 最近の本には珍しい箱入りの本で、クリムトの絵が装画。しかし高い。五千円もする。切れがいい数字なのは、「モンローの伝記下訳五萬円」のため?
 こういう全集につきものの月報がない。書き手はいろいろいそうに思うのだが・・。丸谷氏は文壇の日展審査委員長のような立場でいたらしいけれど、生きていればこそということなのかしら。