今日入手した本 吉本隆明「(未収録)講演集(9)物語とメタファー」 ハンナ・アーレント「活動的生」

 本屋で目につき、村上春樹村上龍を論じられているというので、「へー、吉本氏が!」と思って立ち読みして、この部分だけでも素敵に面白く、買ってしまった。三島由紀夫も論じられているし、俵万智の短歌まで話題になっている。「荒地派について」「詩について」などというのもあり、寺山修司論もある。「作品に見る女性像の変遷」というのでは、北村透谷から独歩、藤村、鴎外、漱石岡本かの子谷崎潤一郎宮沢賢治太宰治埴谷雄高までの女性観、恋愛観までが話題にされている。苦手で全然読んでいない中上健次についての講演もあり、読むと何だか中上健次についてもうわかったような気になってしまった。
 とにかく文学を読めるひとなのだなと思う。わたくしなどが何も思わずに読み過ごしてしまった部分について、ここはこういうことなんですよ、といっているところを読むと、そうか!と思ってしまう。村上春樹論などというのをたくさん読んでいるわけではないが、吉本氏のような視点から論じている人がほかにいるだろうかと思ってしまう。凄いひとである。
 ただ、ざっと目を通した限りで唯ひとつ気に入らないのが、「乳幼児期における母親との関係がその後のその人の無意識を決定する」といったフロイト的な見方が断定的に事実であるかのようにいわれているところで、文学者へのフロイトの影響というのはどうも困ったものだなあと思う。
 
活動的生

活動的生

 これは「人間の条件」としてすでに刊行されているものと基本的には同じものということになるのだと思うが、「人間の条件」は英語版からの翻訳、本書は独語からの翻訳である。アーレントは最初に英語で書き、後から協力者を得て独語版も出版したということらしい。英語版でのタイトルが「 The Human Condition 」で、独語版が「Vita activa」ということでタイトルまで違っていて、決して同じ本の翻訳ということではなく、改訂第二版と呼んでもいいくらいに内容的にも増補されているらしい。
 アーレント母語はドイツ語で英語は外国語のはずである。「人間の条件」の解説で訳者の志水速雄氏は本書がアーレントの本の中でも難解とされるのは、母国語でない彼女の英語の文体も一つの原因ではないかと書いている。「人間の条件」はすでに読んでいるのだが、何か凄く大切がことが論じられているということはわかるのだが、膨大にわからないところが残ってしまっている。それで本書を読めば、もう少し理解が進むかなということで買ってきたのだが、それにしても高い本である。津野海太郎氏が年金生活になると買いたい本も買えなくなると書いていた。今のうちに買っておくしかないのかもしれない。