今日入手した本

 森本あんり「反知性主義

反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

 前に小田嶋隆さんの「超・反知性主義入門」を読んだときに小田嶋さんが対談していた相手として森本氏のことを知った。そしてこの本にも興味をもったのだが、一時在庫切れだった。
 副題が「アメリカが生んだ「熱病」の正体」で、「この国と文化のもつ率直さや素朴さや浅薄さ」を理解するためにはアメリカにおけるキリスト教の土着化の過程を知らねばならないと森本氏はいう。
 わたくしはアメリカの食わず嫌い、知らず嫌いで、そうなったのは若い時に吉田健一にいかれたことによる。何しろ吉田さんというひと、そういえば世界地図のどこかにアメリカという国もあるようですな。ニューヨークにいったときにいい飲み屋さんがあったから、まんざら捨てた国でもないかもしれないね、というような、「アメリカの存在を黙認する」(確か、丸谷才一さんか山崎正和さんの言葉)姿勢のとんでもない人だったので、それに倣ってわたくしもアメリカって永遠に若い野蛮の国として、無関心を決め込んできた。なにしろ「率直さ」も「素朴」も「浅薄」も吉田健一推奨の「文明」の対極にあるものである。
 もう一つはデネットが「解明される宗教」(原題は「呪縛を解く」)のような本を書き、「これは何よりもアメリカ人の読者に向けられている」「アメリカ人ではない読者は、この本からアメリカが置かれている状況について、何かを学んでほしいと思う」「アメリカは、宗教に対する態度という点で、世界の主要な国々とは著しく異なっている」と書くような、あるいは森本氏が「進化論を拒否する「創造主義」」というように、進化論を拒否して生物学がなりたつわけがないと思うのに、平気で進化論否定がいわれる信じられない国というのがわたくしのアメリカのイメージであった。そのアメリカの典型が禁煙運動である、と。まあ、禁煙運動のよってきたるところもふくめ少しはアメリカについて知っておいたほうがいいかなと思い、買ってきた。
 
中井久夫戦争と平和 ある観察」
戦争と平和 ある観察

戦争と平和 ある観察

 またまた中井本。ちらっとページをめくっていて、「東大紛争(闘争)」当時、中井氏が東大分院の精神科にいたことにはじめて気がついた。その当時、精神科は紛争(闘争)の影響をもっとも受けたところの一つであったのだが、分院がどうなっていたのかについてはあまり考えたことがなかった。
 東大本郷の学食の前あたりの立て看が林立しているところで、精神科の入院患者さんがマイクをもってアジ演説をしていた光景をいまだに覚えている。これは患者さんの自発性の表れで回復の兆候なのであるというような説明をきいた。反=精神医学という動向は理由も根拠もあっておきてきたものだと思うが、それが矮小化されるとこうなってしまうわけである。もちろん、反=精神医学というような動向も後から知ったのだが・・。
 
B・エーレンライク D・イングリッシュ「魔女・産婆・看護婦」
魔女・産婆・看護婦: 女性医療家の歴史

魔女・産婆・看護婦: 女性医療家の歴史

 しばらく前に新聞の書評で知った本で、今日、大きな書店にいった時に、看護とか医療の書棚をみてもどこにもない。仕方なく書店内の検索端末で調べたら、なんと「フェミニズム」の棚にあった。帯が「豊かな知恵と経験で身近な人々を治療していた女たちを 資格がないという理由で迫害し、排除し、閉じ込めてきた歴史」とある。
 フェミニズムにとって看護というのは躓きの石ではないかと昔から思っている。この帯にあるのもある意味でイリイチのいう「シャドーワーク」の問題である。家庭などで女の当然の仕事と思われてきたことが女であるが故に無償で当然とされていたのであろうか?という問いである。イリイチも一時フェミニズム陣営から同志として迎えられ、やがて反動として排除されていった。上野千鶴子さんも「介護という女が無償でおこなって当然とされてきた行為が、国家によって有償の行為であると認定されてきた。なんという素晴らしいこと!」というようなことをいう。しかし看護師は資格職なのである。看護協会は看護というのがいかに専門的で高度の知識と能力がなければできないものであるかをいつも強調するが、その由来をたどると母親が子供に、あるいは子が老親にしていたことにたどりつくので、その専門性ということの根拠がつねに曖昧になる。本書もまだ読んでいないが、フェミニズムに味方するものなのか、敵対するものなのか微妙なところがあるのではないかと思う。
 
D・E・リーバーマン「人体 600万年史」 進化の観点から健康とか疾病を見た本らしい。むかし「農業は人類の原罪である」という進化論シリーズの一冊を読んだことがあり、狩猟採集の時代にくらべて農業の時代になっていかに栄養バランスが悪くなったかというようなことが書いてあった。農業が余剰をうみ、余剰が文明をうんだわけであるが、文明とは栄養バランスの悪さを代償にできてきたものなのかもしれない。
 書名をみて買ったのでまだ全然読んでいないが、文明化が健康にあたえるさまざまな影響を論じたもののようである。メタボなどというのが病気としてでてくるということ自体が、大部分の歴史でひたすら飢餓が問題であった人間としてはありえないことなのである。