山本七平「田中角栄の時代」
- 作者: 山本七平
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2016/06/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (1件) を見る
山本氏の本はある程度読んでいるほうかと思うが、この本は読んでいなかった。まだ50ページくらいであるが、面白い。まず、東京(江戸)の成立についての考察が面白い。竹村公太郎氏の「日本文明の謎を解く」の第一章「新・江戸開府物語」を思い出した。
薩長政権対会津というようなことは時々考えることはあったが、暖国対寒国ということは今まで考えたことはなかったように思う。
田中角栄が宰相になった時の新聞の論調(その時に読んでいたのは「朝日」と「毎日」)の大声援のようなものはよく覚えている。何かが変わるのではないか? 何か変えてくれるのではないか? というような期待感の表明で、後の民主党政権誕生の時の雰囲気とちょっと似ていたかもしれない(その時の宰相は田中角栄とは正反対の出自の人間だったわけだが)。
わたくしは成り上がりが嫌いで、「唐様で書く三代目」が好きな人間なので、その新聞論調を読んでいやな感じだなあと思ったのを覚えている。インテリというのは田中角栄のような人間にどこか劣等感のようなものをもつのではないかと思う。それは自分の知識がブッキッシュなもので現実の生活経験に根差していないという引け目のようなものをつねに抱いているからではないかと思う。吉本隆明の「大衆の原像」という言葉があのような破壊力を持ったのも、それとかかわるのであろう。
たぶん、田中角栄は「グローバル」というようなものの正反対のところにいる人間ではないかと思う。日本はグローバルへの志向とローカルへの退却を繰り返しているように思うのだが、最近、田中角栄についての本が何冊か刊行されているのも、近年のローカルへの回帰の志向を反映しているのかもしれない。
山本七平というひとは、日本のローカルを知り尽くしていて、それを知らずにインターナショナルな視点から日本を批判するひとを嫌悪したひとであったのと同時に、日本のローカルがいかに日本を蝕んできたか、蝕んでいるかについても骨身に沁みて感得していたひとであるので、生前は保守のひととされていたのであろうが、国柄などということを平気で口にする保守派も嫌ったはずで、とても奇妙な立ち位置にいた人だったと思う。
本書も田中角栄という政治家を考察することを通じて、日本の病理を考えようとしているものなのではないかと思う。