浅田次郎「日本の「運命」について語ろう」

 二時間位、汽車(死語?)に乗る機会があり、そのための読みものとして、駅の書店でもとめたもの。200ページくらいの薄い文庫本である。
 随分と大きく構えたタイトルであるが、浅田氏の講演の記録である(ただし文字で読んでも違和感がないように編集されている)。
 浅田氏のものをはじめて読んだのは「プリズンホテル」シリーズで、これが氏の作が世に評判になった最初のものかと思うが、大分売れなかった時期があったようであるにもかかわらず、一切、手を抜いていないというか、実に正統的な物語を真剣に紡いでいるのに感心した。つぎが「蒼穹の昴」で、これはもうただただ感嘆した。とはいっても氏の評判になる作は何となく人情噺という印象があって(映画化されたものが、いかにも泣かせますという感じのものが多かったためかもしれない)、それであまり他には読んでいなかった。
 本書で氏がわたくしとほぼ同世代(わたくしより4歳下)であり、父親が戦争にいっていて、杉並在住(氏は中野、わたくしは荻窪)であるなど、いろいろな点で共通していることがわかった(それで、地下鉄丸の内線が荻窪まで延伸したときの幼い日の記憶がある点でも共通している。)氏の父は、新橋から地下鉄に乗って、青山の歩兵第三聯隊に入営したのだそうで、それが「地下鉄に乗って」の原点になったらしい。戦前にもすでに地下鉄はあったわけである。
 中央線の歴史も書いてあって、明治22年に新宿・立川間が開通した時には、間の駅は中野、武蔵境、国分寺だけだったのだそうである。ところが荻窪の住民からぜひ駅を作ってくれという運動がおきて、それで明治24年に荻窪駅ができたのだそうである。
 氏の父は戦争中の経験を一切、子供には語らなかったらしい。これもわたくしの場合も同じであることも興味深かった。文字通り、筆舌に尽くし難い経験をしたということなのだと思う。
 明治以降の日本をどうみるかについては、大きくいって司馬遼太郎史観と山田風太郎史観の二つに大別されるように思うが、浅田氏の明治維新の見方はどちらかといえば、司馬遼太郎よりのように思えた。
 中国近代史から参勤交代の話などまで、歴史の大きな流れからトリビアまでいろいろと教えられた。
 これを読んで、「地下鉄に乗って」を読んでみようかなと思った。