塩原俊彦「ウクライナ戦争をどう見るか」(1)

 著者の塩原氏は随分多くの著書があるかたのようであるが、こちらの不勉強でまったく存じ上げなかった。新聞の広告でこの本を知った。
 昨今の報道では、ウクライナ100%善、ロシア100%悪という論調ばかりが目について、まるで単純な勧善懲悪、いくら何でもそれはないだろうと思っていた。それで広告で、この本はそういう兆候を批判的にみている本のように思えたので購入してみた。副題は「「情報リテラシー」の視点から読み解くロシア・ウクライナの実態」である。
第一章「情報リテラシーをめぐる基本構造」
第二章「二〇一四年春にはじまった? ウクライナ戦争」
第三章「ウクライナ側の情報に頼りすぎるな」
第四章「なぜ停戦できないのか」
第五章「だまされないための対策」
の五つの章からなる。最初と最後の章は原理論であり、決して時流に乗って書かれた本ではないことがそこからも分かる。そうであるなら「「情報リテラシー」の視点から読み解くロシア・ウクライナ戦争の実態」というタイトルの方がよりこの本の目論見をよくあおらわしているように思うのだが、それでは売れないのだろうか?
 まずかなり長い「まえがき」がある(10ページほど)。
 情報は、発信者が「間違った情報や不正確な情報・・ディスインフォメーション」を意図的に流して受信者をだまそうとしている場合がある。その例として挙げられているのが「コンスタンティヌスの寄進状」・・ローマ皇帝コンスタンティヌス1世が321年に教皇領を寄進した証拠の文書とされるもので、教権の西欧所有の重要な根拠の一つとされていたものであったが、これはルネサンス時代に偽書であることが判明したのだそうである。
 現在のもので有名なのは「シオン賢者の議定書」
 わたくしのユダヤ人問題理解は恥ずかしながらほとんど内田樹さんの「私家版・ユダヤ文化論」(文春文庫2006年)一冊に尽きるのだが、それによると日本がこの議定書に多くが接したのはシベリア出兵の時なのだそうである。「ソビエト政府はユダヤ人の傀儡政権である」のだそうである。
 さてインターネットになって「だまし」は世界中に氾濫するようになった。偽情報の拡散が極めて容易になった。ロシアでも米国でも欧州でも中国でも日本でもそうである。しかし日本ではディスインフォメーションへの関心が極めて低く、情報リテラシーに欠ける人が極めて多い。
 それでまず第一章でディスインフォメーションの理論を解説し、第2~4章ではウクライナの戦争を例にとり、報道で人々がいかにだまされているかを提示し、最後の第5章ではだまされないための方策を論じるという構成であることが予告される。
 そもそもわたくしは、第2章「2014年にはじまった? ウクライナ戦争」で紹介される2014年のウクライナでの戦争というもの自体をまったく知らなかった。2014年のウクライナ大統領はヤヌコヴィッチ(2010年民主的な選挙で選出されている)。
 この大統領が親ロシア派であったので、アメリカがその排除を試みたのが2014年の戦争であったというのだが、それはまた稿をあらためて。

 ここからは、4月26日に付記したもの
 ネットをみていたら、毎日小学生新聞2月22日「ニュース知りたいんジャー」に長岡平助さんという方の「ロシアのウクライナ侵攻1年」という記事がみつかった。
 比較的中立的というのか、必ずしもウクライナに一方的に肩入れしているのではない記事であると感じた。しかもそこには2014年の事件のこともちゃんと書いてあった。わたくしの不明を恥じる。
 小学生新聞であるから漢字凡てにルビがふってあるのだが、それでもこの記事が小学生に理解できるのだろうかということを強く感じた。
 現在の小学生には東西冷戦などという言葉がピンとくるとは思えないし、そもそもソ連という国があったことさえ知らないのではないだろうか? マルクス主義などというのも??であろう。
 大人の新聞にはこの程度のことさえ書かれていないように思う。もっぱら、ウクライナ軍が2キロ前進したといった記事ばかりである。