森永卓郎「バブルとデフレ」

 [講談社現代新書 1998年12月20日初版]


 村上龍の「だまされないために・・・」で言及されていたので、思い返して読み直してみた。3年以上前に書かれた本であるが、現状とずれていないというか、著者の予測通りデフレは進行している。
 著者によれば、日本の戦後経済は、市場経済競争ではなく、過当競争の原理で運用されてきたのだという。市場経済は強者と弱者をわけるが、強者と弱者のあいだでは競争はおきようがない。しかし、似たもの同士の競争においては過当競争がおきる。日本の戦後経済は、似たもの同士を競わせて、そこから最大の利益を引き出してきた。
 著者も指摘するように、日本的経営は日本がうまくいっている時には賞賛され、うまくいかなくなると非難される。
 実は、1985年ごろに、金融システムについても、一般の経営システムについても、このままではいけない、いずれ立ち往生するということは 内部でも指摘されていたし、それに対する具体的な処方箋まで書かれていたのだという。つまり、<構造改革>の必要性はこのころすでに指摘されていたのである。しかし、バブルによって、それが実施されないままになってしまった。なにもしなくてもバブルによってうまくいってしまったからである。
 いわゆるバブルの前の高度成長期に日本は株や地価のバブルを経験している。しかし、それは石油危機などによって沈静した。だが、それが石油危機という外部要因によって沈静したため、そういう要因さえなければ、成長はそのまま続いてもよかったのだという思いが残り、いわゆるバブル期には、拡大への歯止めがなくなっていた。そして経済実態を大きくこえて膨らみ、やがて崩壊した。
 戦後の日本にはいくつものインフレ促進因子が存在した。それが現在ではほとんどなくなってしまっているので、このデフレはある程度長期化せざるをえない。

 3年以上前にかかれた日本の問題点がほとんどそっくりそのまま、現在でも残っているというのも不思議な話ある。
 今の日本のデフレはアメリカの1937年の不況に似ていて、アメリカがそれから脱出できたのは、太平洋戦争での戦時経済への移行によってなのであるという。福田和也もどこかでデフレからの脱出の手段は過去においては、つねに戦争であったというようなことを書いていた。

(2006年3月19日ホームページhttp://members.jcom.home.ne.jp/j-miyaza/より移植)

  • このころの森永さんは面白かったのだが・・・。(2006年3月19日付記)

バブルとデフレ (講談社現代新書)

バブルとデフレ (講談社現代新書)