佐野洋子「100万回生きたねこ」
講談社 1977年10月20日初版
絵本。100万年のあいだ、100万回死んで、100万回生きた、とら猫の話。
このとら猫は、何よりも自分を愛するので、飼主に愛されてもわれかんせずで生きている。それが死ぬと飼主は一方的に悲しむが、とら猫はまた別に生きかえり、また別の飼主に愛される。それを繰り返し、やがてとら猫は、のらねこになる。はじめて「自分の」ねこになる。とら猫は多くのめす猫に求愛されるが、見向きもしない。だれよりも自分が好きだったから。
そのとら猫に関心を示さない白いねこがいる。とら猫はそのそばにいたくなる。やがて、二匹のあいだにたくさんの子猫が生まれ、巣立ち、老いた二匹がまた残される。ある日、白いねこは死に、とら猫は泣き続ける。やがて、とら猫も死ぬが、もう二度と生き返ることはない。
仏教の輪廻転生からの解脱の話、というような理屈をつけることはなかろう。
自分と自分をこえるものの寓話であり、生ききるということの寓話である。
もうこれだけ十分に生きたのだから、死んでもいいのだ、という生き方。
加藤典洋「ポッカリあいた心の穴を少しずつ埋めてゆくんだ」に紹介されてあった本。
2006年7月29日 HPより移植