小倉千加子 「結婚の条件 朝日新聞社」

    2003年11月30日初版


 小倉千加子はかつて上野千鶴子富岡多恵子と「男流文学論」という鼎談をやって、男性作家をばったばったとなぎ倒した恐ろしげなフェミニストであったと思う。それで、敬して遠ざけていたのだが、読んでみたら意外とおとなしかった。
 著者はかつて大阪地方の女子短大に勤務していたことがあるらしく、鳥取県の酪農家の花嫁に学生がならないかという話を授業でしたことがあるという。しかし全員拒否で、彼女たちは同じ敷地に親がいない専業主婦以外の結婚なら絶対に結婚しないということであったらしい。なぜか? 自分の時間が持ちたいから、自分の将来について考える時間を持ちたいから!?
 日本の平均初婚年齢の高さは世界第三位なのだそうであるが、婚外子にきびしく、同棲という形態が結婚の代用をしていないことを考えれば実質世界一であろうという。
 結婚の早さは学歴と所得と相関するという。中卒が一番初婚年齢が早く、大卒がもっとも遅いのだそうである。しかし、口では、ほとんどみんながいづれは結婚する気はあるという。適当な相手がいさえすれば、と。
 その場合の課題は現状の生活が維持できるかどうかであるという。親が子どもに過大な投資をすれば、その子がえている快適な生活を結婚後も維持できるためには、相手が相当な資産をもっていなくてはならない。自分の生活レベルを落とさなくてはならないくらいなら結婚しないのである。
 ところで上野千鶴子によれば専業主婦に敗者復活戦はないのだそうである。
 かつて、結婚していない女性は、「何で結婚しないの」「老後はどうするの」「寂しいでしょう」といわれたのだそうである。それが今では、「自分の稼ぎで食べてる。ええなあ!」といわれるのだそうである。そして「稼ぎのない亭主なんか、おらんほうがマシや!」ということになるのだそうである。
 かつては「旦那が死んだらどうするの?」と専業主婦に尋ねると、「生命保険があるから大丈夫」と答えたのだそうである。旦那がリストラにあうなんてことは予想もしていなかった。
 もしも男の資源がカネであり、女の資源がカオであるなら、バランスシートは歳とともに男に有利になっていく。あなた大丈夫?と著者はいう。

 ほとんど女性の結婚問題だけを論じているが、まあ村上龍がきいたら憤死しそうな娘達ばかりである。自立への希求はゼロで、ひたすら自分を養ってくれる資産家が現れるのをまっているらしい。フリーターと専業主婦は潜在的失業者であるといったのは内田樹さんだったような気がするが、こういう女性軍にはあと10年から20年先にどういう悲惨な運命が待っているのだろうかと思うと、自己責任であるから仕方がないとしても、暗澹たる思いがする。
 それにしても小倉さんというひとは、フェミニズム運動を長らくやってきて、つくづくと女性が嫌いになってきているようである。自分のしてきたことはいったい何であったのかという思いなのであろう。
 ところで、ここででてくる「東京ラブストーリー」とかいうテレビドラマ、あるいは「Very」だ「Story」だという雑誌の名前に全然ぴんとこなくて困った。これまた一種の教養で、こういうものもちゃんと知っていなくてはいけないのだろうか?