E・ウォー「卑しい肉体」

   新人物往来社 2012年 9月
 
 ウォーの第二作目の小説らしい。第一作「大転落」(「衰亡記」)と第三作「黒いいたずら」の間にくる。この第一作と第三作ともにとても面白かったのだが、これは今一つであった。この前後の2作ともにリアリズムとはまったく縁のない小説であり、その点ではこの「卑しい肉体」もそうなのだが、これはちょっと法螺話の程度が十分でないというか、当時の上流階級の若者を諷刺したのだとしても、彼らだったらここに書いてあることくらいはしかねないという気がしないでもないので、もう少し羽目を外した小説にすればよかったのにと思う。この小説を書いている途中に個人的に深刻な体験をし(離婚)、それで社交界の人々についての小説を書く意欲が減退してしまったということもあるらしい。そういう人たちは不毛な存在で、内部から萎え腐っている、それらを書くことに段々意義を見いだせなくなっていったということのようである。かれらの不毛を嗤おうと、張り切って書き始めたのだが、嗤う価値さえない人たちに思えてきたのかもしれない。
 この「卑しい肉体」というタイトル、「卑しい肉体たち」とでもしたほうがいいのかもしれない。それでは全然こなれない日本語だが、「卑しい肉体」という題だと「肉体は卑しい」という意味にとられかねない。聖書に由来する言葉らしいが、ここではほとんど「卑しい人たち」というのと同義だと思うから、それならそうしてしまったほうがいいかもしれない。それと当時の「陽気な若者たち」の使う言葉がいささか現代的過ぎる言葉になってしまっているように思う。「超、超恥ずかしい」なんて言葉は20世紀初頭のイギリスの若者が使う言葉としては変ではないだろうか?
 ウォーは日本ではあまり人気がない作家らしく、まだかなり翻訳されていないものがあるのではないかと思う。この小説は「20世紀イギリス小説 個性派セレクション」の一冊として刊行されたものである。つまり主流の正統派とは思われていないということなのかもしれない。「ブライズヘッドふたたび」があんなに面白いのだから、もう少し誰か翻訳してくれないものだろうか? この出版不況ではなかなか難しいのだろうか?
 

卑しい肉体 (20世紀イギリス小説個性派セレクション)

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大転落 (岩波文庫)

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ブライヅヘッドふたたび

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