2004-01-01から1年間の記事一覧

長尾龍一 「リヴァイアサン」

[講談社学芸文庫 1994年9月10日初版] 長尾氏には、わたくしが大学の教養学部の時に法学を習った。氏もまだ30代であったろうと思う。 その時から、飄々とした、どことなく仙人のようなひとであった。それ以外のことは、どんなことを習ったかもさっぱ…

水谷三公 「丸山真男」

[ ちくま新書 2004年8月10日初版] 最初のほうに、丸山真男は「世間」の人ではなく、「社会」の人であったという指摘がある。「社会」はムラ八分もいじめもない、欧米近代にある自由な個人の自発的な協力と連帯を約束するものであったが、それが日本に…

青島広志 「作曲家の発想術」

[講談社現代選書 2004年8月20日初版] 青島氏は昔ちょっと名前をきいて最近ほとんど耳にすることのない作曲家である。本書によれば全然注文がこないのだそうである。 前半は作曲家としての履歴。真ん中が自分の曲をふくむさまざまな楽曲の紹介。最後が…

養老孟司 テリー伊藤 「オバサンとサムライ」

[宝島社 2004年8月13日初版] まあどうでもいい本なのだけれど。 テリー伊藤が「お笑い! 大蔵省極秘情報」のノリで、養老をヨイショしていい気にさせて、はんぶん養老をからかっているような本。なにしろ養老さん、いい気になって、日本かくあるべし…

浅羽通明 「アナーキズム 名著でたどる日本思想入門」

〔ちくま新書 2004年5月10日初版〕 浅羽氏というのは思想について面白い見方をするひとで、思想というのはそれを読む人の状況によって必要になったり、関係のないものであったりするものだという。だから思想だけをとりだしてそれの価値を論じること…

内田樹 「街場の現代思想」

[NTT出版 2004年7月6日初版] なんだか随分と安直につくられた本で、読みでがすこしあるのは最初の「文化資本」の話の部分だけ。それで文化資本とは、「階層」を規定するものであり、金を得ることにより上昇できる「階級」とはことなり、自分の努力…

橋本治 「女賊」

[集英社 1998年9月30日 初版] これも初めて読む。江戸川乱歩原作「黒蜥蜴」による一人芝居であるが、乱歩の原作も、三島由紀夫の「黒蜥蜴」もどちらも読んでいない。わたしは乱歩というのは根は健全な人ではないかと思うので、これは乱歩の原作より、…

橋本治 「橋本治が大辞林を使う」

[三省堂 2001年10月20日初版] これも初めて読んだ。こういうタイトルの本だが、大辞林という辞書の話はあまりでてこなくて、もっぱら話は、橋本治における言語の習得という方面について。 橋本治がなぜ歌舞伎に興味をもったのかということがよくわか…

金井美恵子 「目白雑録 ひびのあれこれ」

[朝日新聞社 2004年6月30日 初版] 金井美恵子氏を最初に知ったのは、その処女作?「愛の生活」を石川淳とか吉田健一とかが絶賛していたときで、それで読んでみたのだが、なんだかよくわからなかった。それ以来ずっと縁のないままできていたのだが、ど…

ダン・ブラウン 「ダ・ヴィンチ・コード」

[角川書店 2004年5月30日 初版] 基本的に暗号解読小説。その暗号解読の過程でキリスト教裏面史にかんする薀蓄が語られるという仕掛け。上巻を読んでいて、わたくしには初耳の話でも荒俣宏みたいな物知りなら、そんなことみんな俺は知っているぜ、とい…

橋本治 「風雅の虎の巻」

[ちくま文庫2003年7月9日 初版 原著1988年9月初版] 最近橋本治の本を読み直しているが、この本は今度はじめて読んだ。 大変面白かったのでレジュメをつくってみる。 江戸時代、男は髪型によって分類できた。野郎(チョン髷)、若衆(前髪)、坊主…

井上章一 「アダルト・ピアノ おじさん、ジャズにいどむ」

[PHP新書 2004年7月2日初版] 「美人論」「パンツが見える」の井上章一氏が中年にしてピアノにいどんだ奮戦記である。 現在49歳の井上氏は41歳からピアノをはじめた。理由はもてたいからなのだそうである。 ピアノを弾くともてるのか? 井上氏の…

橋本治 「天使のウインク」

[中央公論社 2000年3月25日初版]・その② 後半の三分の二。 日本人は勝者への道という選択肢しかもたない。もしそれが勝者への道であるなら抵抗なく管理される方向を選択する。 今の日本人にとって労働とは会社に通うことである。それは肉体労働ではな…

橋本治 「天使のウインク」

[中央公論社 2000年3月25日初版]・その① 橋本治の本を少し読み返している。 この本は4年前の刊行だが、中央公論に3年ほど連載された文をおさめたもの。 本質はシンプルなのであって、冷静に事態を見極めて行けば、”怖い”と思えるようなものはなくな…

中沢新一 赤坂憲雄 「網野善彦を継ぐ」

[講談社 2004年6月25日初版] わたしが網野の名前を知ったのはずいぶんと最近のことで、まとめて集中的に読んだのは5〜6年前のことであろうと思う。考えてみれば私が読んだ日本史に関する本といえば網野氏のものだけかもしれない。その網野氏がなく…

田川健三 「キリスト教思想への招待」

[勁草書房 2004年3月10日初版] 田川健三という人の名前は以前からときどききいていて、キリスト教思想についてラディカルな主張をしている人というような噂であったが、どのようなことをいっているのかはまったく知らなかった。その氏が最近、一般む…

渡辺京二 「対談集 近代をどう超えるか」

[弦書房 2003年8月15日 初版] 渡辺氏と7人の対談集であるが、対談相手は榊原英資氏と中野三敬氏以外は知らないひとである。 「“江戸の平和”とグローバリズム」 対榊原英資 渡辺:室町時代に日本の村はできた。そのころの村は隣の村と山や水を争うミ…

嵐山光三郎 「口笛の歌が聴こえる」

[新風舎文庫 2003年11月5日初版 原著1985年初版] 小説ということになっているが、唐十郎、三島由紀夫、深沢七郎、横尾忠則、壇一雄などが実名で登場する著者の半自伝である。時代は1964年から69年まで。巻末にその時代の年表と登場人物の索…

谷崎潤一郎 「鍵・瘋癲老人日記」

[新潮文庫 1968年初版 原著1962年初版] 小林信彦の「面白い小説を見つけるために」を読んで興味をそそられたので、「瘋癲老人日記」を読んでみた。 恥ずかしながら谷崎の小説を通して読むのは初めてである。昔「細雪」を読み出したことがあるが、通…

橋本治 「ああでもなくこうでもなく4 戦争のある世界」

[マドラ出版 2004年5月16日初版] 橋本治が「広告批評」に連載している時評「ああでもなくこうでもなく」をまとめた本の第4冊目。その第3冊目もここでとりあげた。 時評であるからさまざまな話題をとりあげているが、そのうちのいくつか。 「年金問…

太宰治 「お伽草紙」

[新潮文庫 1972年初版 原著1945年初版] 小林信彦の本を読んでいて読みたくなった。 面白い。「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ山」「舌切雀」の4編をおさめる。 「瘤取り」のお爺さんも、「浦島さん」の浦島も、「カチカチ山」の狸も、「舌切雀」の…

小林信彦 「面白い小説を見つけるために」

[光文社 知恵の森文庫 2004年5月15日初版 原著「小説世界のロビンソン」は1989年3月初版] いわゆる小説らしい小説、前衛文学とかアンチ・ロマンとかでない普通の小説を擁護し続ける小林氏の小説論である。 わたくしは年に数冊しか小説を読まなく…

富士川義之 「新=東西文学論 批評と研究の狭間で」

[みすず書房 2003年12月18日初版] 富士川氏が論じたさまざまな文学論を「英米の文学」と「日本の文学」についてわけて収載したもの。こういう学識がある人は無条件に尊敬してしまう。本当は自分はこういうひとになりたかったのだなという気もする。 …

清水徹 「吉田健一の時間 黄昏の優雅」

[水声社 2003年9月20日初版] 清水徹の書いた多くの吉田健一にかんする論考を集めたもの。「黄昏の優雅」という副題にも見られるように、穏当な、現在流布している吉田健一像に基本的にそったものである。 その中の一篇「時間、この至高なるもの」の中…

橋本治 「いま私たちが考えるべきこと」

[新潮社 2004年3月30日初版] この本の11章にあたる「個性とは哀しいものである」についてはすでに雑誌「考える人」に掲載された時点でとりあげているが、今回単行本として刊行されたので、あらためて本全体を通して論じてみる。 根源的な本である。…

鶴見俊輔 上野千鶴子 小熊英二 「戦争が遺したもの 鶴見俊輔に戦後世代が聞く」

[新曜社 2004年3月10日 初版] わたくしは市民運動というのが大嫌いであって、だから市川房江もその弟子の管直人も青島幸男も大嫌いであるし、「ベトナムに平和を! 市民連合」などというのをやっていた小田実も大嫌いである。まあほとんど生理的嫌悪…

小熊英二 「<民主>と<愛国>−戦後日本のナショナリズムと公共性」

[新曜社 2002年10月31日初版] 注と索引もふくめると千ページ近くもあり、値段も6千円以上という大著であるけれども、私の買った今年一月の版が第8刷となっているから、けっこう売れているのであろう。一ケ月くらいかけて少しづつ読んできた。 これ…

加藤典洋(編) 「イエローページ村上春樹 Part2」

[荒地出版社2004年5月1日 初版] 加藤が教鞭をとっている明治学院大学の学生との討論による村上春樹論。とはいっても文体も加藤のものであるし、加藤の著書といってもいいであろう。 今年のはじめに読んだ加藤の「テキストから遠く離れて」と「小説の未…

町田康 「屈辱ポンチ」

[文春文庫2003年5月10日初版 原著1998年12月初版] また読んでしまった。中毒なのだろうか? 「けものがれ、俺らの猿と」と「屈辱ポンチ」の二作をおさめる。「けものがれ・・・」はよくわからない。なんか薬を飲んで書いたのかなという感じ。大…

町田康 「くっすん大黒」

[文春文庫2002年5月10日初版 原著1997年3月初版] 「パンク侍・・・」が面白かったので読んでみた。処女作の「くっすん大黒」と第二作の「河原のアパラ」を収めている。 このひと初めっからこうだったのね。「パンク・・・」の小道具である猿も刺…