2022-01-01から1年間の記事一覧

池田信夫 与那覇潤 「長い江戸時代のおわり 「まぐれあたりの平和」を失う日本の未来」(4) 環境―「エコ社会主義」に未来はあるか(ビジネス社 2022年8月)

池田;ウクライナ戦争は長期的にはエネルギー政策に大きな影響を与えると思われる。欧州の電力はロシアの天然ガスへの依存を強めてきていたので、プーチンは欧州は強く出られないと踏んでいた可能性がある。今度の戦争で欧州は脱原発や脱炭素化を維持できな…

池田信夫 与那覇潤 「長い江戸時代のおわり 「まぐれあたりの平和」を失う日本の未(3) 経済―「円安・インフレ」で暮らしはどうなるのか」(ビジネス社 2022年8月)

与那覇:岸田氏が宰相就任時「新自由主義との決別」といったのはびっくりした。 池田;7年半も続いた第二次安倍政権(2012-2020)は「新自由主義」ではない。 与那覇:「アベノミクスの三本の矢」とは、1)リフレの理論によった金融政策。2)財…

池田信夫 与那覇潤 「長い江戸時代のおわり 「まぐれあたりの平和」を失う日本の未来」(2) 「自民党一強」はいつまで続くか (ビジネス社 2022年8月)

21年の選挙で立憲民主党が惨敗した。岸田氏は往年の「宏池会」よりは大分右であり、 氏は2015年の安保法制問題で外相として集団的自衛権の行使を容認した。当時の安倍首相は自民内でも傍流で、平成の半ばまでは極右の変な政治家という扱いだった。(池…

池田信夫 与那覇潤 「長い江戸時代のおわり 「まぐれあたりの平和」を失う日本の未来」(1) (ビジネス社 2022年8月)

与那覇氏の本は以前「中国化する日本」を読んだことがあるが、いま一つ論旨が掴めない本だった。池田氏の名前はどこかできいたことがあるなと思ったが、「アゴラ」というネット上でいろいろなことを論ずる場を主宰している方だった。 割合最近ここでとりあげ…

関川夏央「ドキュメント よい病院とはなにか 病むことと老いること」(小学館 1992年 講談社文庫 1995)

このところ、緩和医療やホスピスに従事する医師の著作をとりあげ、少し辛口なことや悪口?のようなことを書いた。そうしているうちに、関川さんの「よい病院とはなにか」にも緩和医療をしている病院を取り上げたところがあったことを思い出した。 この「よい…

Roald Dahl 「 Matilda」その他

20日くらい前の記事で、Dylan Thomas の「あの快い夜へおとなしく入っていってはいけない」に言及した。 その時、そういえばダールの「マチルダ」にもトマスの詩が引用されているところがあったなと思い出した。何となく「Poem in October」と思っていたの…

(池上彰 佐藤優 「激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」 「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972―2022」 講談社現代新書(2022) (7 終り)

この3冊本の最後は副題が「理想なき左派の混迷 1972-2022」である。 「はじめに」で池上氏は、この頃ベトナム戦争でアメリカは苦戦し、世界各地でベトナム戦争反対の運動が燃え盛っていた。これを人によっては「革命の日」が近いと受け取ったかも…

(池上彰 佐藤優 「激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」 「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972―2022」 講談社現代新書(2022) (6)

p211から「過激化する新左翼」の章になる。 p223に佐藤氏が「新左翼の活動が一線を越えた、ある意味で荒唐無稽とも言える先鋭化をしていった」のは「京大全共闘の滝田修の思想にあったと考える」としている。「滝田は、革命のためには既存党派とは別…

池上彰 佐藤優 「激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」 「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972―2022」 講談社現代新書(2022) (5)

「激動」p121から東大闘争が論じられていく。1月10日に「東大七学部学生集会が開かれ、大学側と学生側の間で「確認書」がとりかわされ各学部のストは次々に解除されていった。大部分の学生たちは授業が半年以上ないという事態にほとほと嫌気がさして…

胃癌リンパ節の拡大郭清

昨日、 近藤誠氏のことを書いていて、わたくしの現役のころさかんにいわれていた胃癌リンパ節の拡大郭清のことを思い出した。胃癌に限らず、腫瘍は周囲のリンパ節に転移をおこしていくわけで、もちろん周囲のリンパ節→もう少し遠いリンパ節→さらに遠いリンパ…

近藤誠さん

近藤誠さんがなくなったらしい。 近藤さんほど医者仲間から嫌われていた医師はあまりいないのではないかと思う。何だか変なことをいっている医者というのはいくらでもいるがが、近藤氏は過去にきわめてすぐれた業績のあるかたであり、おそらく日本の乳がん治…

池上彰 佐藤優 「激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」 「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972―2022」 講談社現代新書(2022) (4)

「激動」p112で池上氏はいう。「大学自治会という場はみんなの大衆組織ですから、ここで多数決をとり賛成多数が得られれば学生ストライキを打つことも可能です。しかし同じストでもバリケードでキャンパスを封鎖し、建物を封鎖し、建物を占拠するような…

中井久夫さん (続)(補遺)

前稿で「希望を処方する。」という中井氏の「医療と家族とあなたとの三者の呼吸が合うかどうかによってこれからどうなるかは大いに変わる」という言葉を紹介した。 二十年位前、妹が「悪性リンパ腫」になった。 ある金曜日、外来をしていたら、妹から電話が…

中井久夫さん (続)

中井久夫さんが亡くなられて、追悼の記事をみると、氏の業績として神戸の震災時の罹災した方々への精神的ケアを挙げているものが多い。たしかにPTSD(Post Traumatic Stress Disorder)という言葉はそのころから一般化したように思う。というかそれとは異な…

中井久夫さん

中井久夫さんが亡くなられたらしい。 中井さんの本は随分ともっている。50冊くらいはありそうである。 最初に氏の名前を知ったのは、1990年に刊行された「吉田健一頌」(書肆 風の薔薇)に収載されていた丹生谷貴志氏の「奇妙な静けさとざわめきとひし…

河野博臣 「幸福な最期 ホスピス医のカルテから」(講談社 2000年)

もう20年以上前の本であるが、最近、山崎章郎氏の「ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み」を読んで本書を思い出した。山崎氏は緩和ケア医であり、河野氏はホスピス医である。そして両書ともに著者が癌に罹患した体験記でもある。 ホ…

池上彰 佐藤優 「激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」 「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972―2022」 講談社現代新書(2022) (3)

10年前の1951年に米国との間に締結された旧日米安保条約が改定の時期を迎え、時の宰相岸信介は旧条約の不平等部分の改定をすすめようとしていた。しかし、社会党が安保改定は米軍の恒久的な日本駐留を許すものであり、台湾や朝鮮の有事に日本は戦争に…

池上彰 佐藤優 「激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」 「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972―2022」 講談社現代新書(2022) (2)

さて、佐藤氏は現在われわれが直面している格差や貧困などの問題の多くは左翼が掲げてきた問題そのものである、という。そうであるとすると「左翼の思考」をとりもどさなければならないのだ、と。 その問題に60年以降は、旧来の社会党、共産党に加えて「新…

I池上彰 佐藤優 「激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」 「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972―2022」 講談社現代新書(2022) (1)

なんでこの本を読んでみようと思ったのかというと、わたくしが悪名高い全共闘世代の一員だからである。60年安保が麻布中学2年、1968年が東大医学部1年。 60年安保の時のことで記憶にあるのは、ラジオ(短波?)で国会乱入の現場からアナウンサーが…

バーバラ・ステーィリンク「イエスのミステリー 死海文書で謎を解く」

この「イエスのミステリー 死海文書で謎を解く」(NHK出版 1993)は橋本治氏の「宗教なんかこわくない!」(1995年 マドラ出版 のち ちくま文庫)を読んだときに知ったのだが、とてもわたくしには歯が立たない本と思ったので読まなかった。なにしろ…

山崎章郎「ステージ4の緩和ケア医が実践するがんを悪化させない試み」(新潮選書 2022年6月 新潮選書)

山崎氏の本は以前「病院で死ぬということ」(1990年 主婦の友社 後に文春文庫 1996年)を読んだことがある。緩和ケア医療をおこなっている方で、1947年生まれとあるからわたくしと同年齢である。 今回これを読んでみようかと思ったのは、わたく…

「神の子どもたちはみな踊る」

「神の子どもたちはみな踊る」は村上春樹氏が2000年に刊行した連作短編集で、当初「新潮」に連載された時には「地震のあとで」という総題がふされていた。ここでの地震は神戸淡路大震災である(1995年1月)。なおこの神戸の地震からすぐの3月には…

楠木建氏

勢古浩爾氏が「続・定年バカ」(SB新書 2019)で、楠木建氏の「すべては「好き嫌い」から始まる(文藝春秋 2019)」を紹介して、橘木の好悪を紹介している。 それは、「賭け事はまったくやらない。競技スポーツは嫌い。テレビはみない。」「徹頭徹尾…

勢古浩爾「ぼくが真実を口にすると 吉本隆明88語」(1)

谷沢永一氏の「人間通」(1995 新潮社)を何となくぱらぱらと読んでいたら、この勢古氏の本(2011年 ちくま文庫)を思い出した。「人間通」は、組織の要となり世の礎となりうるための必要条件は「他人の心がわかることである」とする谷沢氏が、その…

読んで来た本 9 (番外) 音楽関係

わたくしは昭和22年の生まれで、小学校入学時にも(今から思えば)まだ敗戦後であり、音楽などというものに接触する機会もほとんどなかった。せいぜいラジオから流れてくる音楽で、今でも覚えているのが、「緑の丘の赤い屋根 とんがり帽子の時計台 が鳴り…

千葉雅也「現代思想入門」(終) 「ポスト・ポスト構造主義」

この文章を書く関係で本棚をごそごそやっていたら、T・イーグルトンの「ポストモダニズムの幻想」が出て来た。1998年刊行だが、わたくしが持っているのは2003年刊の7刷。ポストモダン批判というのは結構売れるらしい。 さらに驚いたのは雑誌「現代…

千葉雅也 「現代思想入門」(8) 現代思想の作り方

第6章は「現代思想の作り方」と題されている。 本書がわかりにくい原因の一つが「現代思想」と「フランス現代思想」という二つの用語が使われていることにあると思う。 この章の冒頭ではこれまで「フランス現代思想」について説明がされてきたとされている…

千葉雅也 現代思想入門(7) 精神分析

第5章はそのはじめに「現代思想の前提としての精神分析」という項がおかれている。そして現代思想がわかりにくい原因の一つはラカンの精神分析が現代思想の前提になっているにもかかわらず、それがとてもむずかしいからだ、ということがいわれる。精神分析…

千葉雅哉「現代思想入門」(6) 「現代思想の源流―ニーチェ、フロイト、マルクス」

千葉氏はこの3人を現代思想の源流であるとする。この人選をみるとマルクス?だがそれは後でみるとして、ニーチェとフロイトを較べたら断然、ニーチェ>>フロイトであるように思うのだが、千葉氏(あるいは千葉氏をふくむ現代思想の陣営の人)は異様にフロイ…

千葉雅也 「現代思想入門」(5) フーコー

わたくしがフーコーというと想起するのは「パノプティコン」である。われわれはソフトな監視システムによって管理されているというようなことだったのかなと思っている。学校・軍隊・病院・家族などの近代の様々な制度はみなそうで、支配者が不可視化されて…