医療関係

J・グループマン「医者は現場でどう考えるか」(2)ヒューリスティック

ヒューリスティックは heuristic で、これ自体は形容詞で原義は「発見的」というようなことらしく、heuristics で名詞になるらしい。主にコンピュータ業界と心理学の分野で使われる言葉のようで、手っ取り早く近似解を得るやり方のことを指すようである。こ…

J・グループマン「医者は現場でどう考えるか」(1)

石風社 2011年10月 著者はエイズや血液腫瘍を専門にする臨床家。このタイトルを見ると、医者が臨床の現場でどのように考えるかという、医者に共通した思考法について論じているように見えるが、そうではなく現在の医療の場で主流となっている思考の方…

猪飼周平「病院の世紀の理論」(2) 第2章「所有原理型医療システムの原型」明治期日本における開業医の形成

所有原理というのは本書にかなり特有な用語である。猪飼氏は、医療システムをまず、専門医と一般医を分離するシステムをもっているか否かで区分する。イギリス型は専門医と一般医を明瞭に区別する行き方である。それに対してアメリカと日本は分離しないシス…

猪飼周平「病院の世紀の理論」(1) 序章「病院の世紀という構想について」 第一章「病院の世紀の理論」

有斐閣 2010年3月 著者の猪飼氏は一橋大学の社会学の准教授。偶然、医療者に配布される刊行物で知るまで、まったく知らなかった方である。本書の内容は医療の世界にかかわっていない方にとってはあまり関心のないものであろう。したがって以下に書くこ…

岩田健太郎「「患者様」が医療を壊す」(2)

新潮選書 2011年1月 第一章では医者と患者の対立がテーマであったが、第二章は医療の場におけるそれ以外の対立がとりあげられる。基礎医学者対臨床研究者、量的研究と質的研究、EBM対経験主義、内科医対外科医、ジェネラリスト対スペシャリスト、開…

岩田健太郎「「患者様」が医療を壊す」(1)

新潮選書 2011年1月 著者は感染症の臨床家であり、本書は現代の日本の医療についての著者の見解を述べたもの。とはいっても、本書でも書かれているように、述べられていることの多くには内田樹さんの著書からの影響が強くうかがわれる。ということで、…

大井玄「人間の往生」(2)

大井氏は「相互独立型自己観」と「相互協調型自己観」ということをいう。「自己が他者とは独立した一つの宇宙である」というような「近代的自我」「アトム的自我」という自己観と、「自己が周囲の他者と切り離し難く結びついた存在である」とする自己観であ…

M・ブルックス「まだ科学で解けない13の謎」(終)第13章「ホメオパシー(同種療法)」

本書のタイトルは「まだ科学で解けない13の謎」なのだが、それではホメオパシーが科学で解けない謎なのかといえば、本文にもあるように「実証ずみの科学的現象という基準で見るかぎり、ホメオパシーにはまったく“効力がない”という評価が下されている」の…

M・ブルックス「まだ科学で解けない13の謎」(5)プラシーボ効果

本書を最初偶然書店でみかけたとき、購入してみようと思ったのは、本章「プラシーボ効果」と次章「ホメオパシー」の章があったからだった。 まず12章「プラシーボ効果」をみていく。 のっけから抗不安薬ジアゼパム(日本での商品名はセルシンあるいはホリ…

ウルフ ペデルセン ローゼンベルク「人間と医学」(終)

博品社 1996年 第14章「心と体」。 この章の冒頭に「この本の主なテーマの一つは、病人はたんに「機械的な故障」をもった生物体ではなく、考え、行動し、希望し、悩む人間だ、ということにある」という文がある。機械は考えず、行動せず、希望を持たず…

ウルフ ペデルセン ローゼンベルク「人間と医学」(5)

博品社 1996年 第10章「医学と社会学」。 この章で著者らがいいたいことは、環境が疾病発生に関係するという見方もまた、パッシブなものであるということのようである。人間は細菌により病気になるという見方も、タバコにより病気になるという見方も、…

ウルフ ペデルセン ローゼンベルク「人間と医学」(4)

博品社 1996年 第8章「精神医学への自然主義的アプローチ」 この本はだいぶ以前に書かれた本であるので、最初が〈反精神医学〉の話からはじまる。一時、一世を風靡したレインらの〈反精神医学〉は精神疾患などというものはないと主張する。それは社会が…

ウルフ ペデルセン ローゼンベルク「人間と医学」(3)

博品社 1996年 第7章「確率と確信」。 われわれがある治療を選ぶ場合、その治療がうまくいく確率が70%であるというような場合、それが意味するものはどういうことなのだろうかという問題が議論される。 通常、確率とはたくさんの試行をした場合(反…

ウルフ ペデルセン ローゼンベルク「人間と医学」(2)

博品社 1996年 第4章は「病気の機械モデル」と題されている。 機械モデルというのはという見方のことである。病気とは機械の故障であり、健康は故障していないことである。その見方によれば、健康と病気は分けられる。故障しているかいないかという事実…

ウルフ ペデルセン ローゼンベルク「人間と医学」(1)

博品社 1996年 本書は翻訳が1996年の刊行で、原著は1986年に刊行されている。原題は「医学の哲学」である。哲学者と内科医(消化器専門)と精神科医の三人の共著。 本棚を整理していたら、出てきた。以前中途まで読んで、そのままになっていたよ…

S・シン&E・エルンスト「代替医療のトリック」

新潮社2010年1月 著者のシンは、「フェルマーの最終定理」「暗号解読」などを書いている科学ライター、もう一人のエルンストは、紹介によれば世界初の代替医療の分野における大学教授とある。医療研究者とされているが、物理学で博士号をとったと書いて…

奥村康「「不良」長寿のすすめ」(3)

宝島社新書 2009年1月 《フィンランド症候群》 1974年から15年をかけてフィンランドで健康管理の有用性にかんする大規模な対照試験がおこなわれた。 設計:生活環境の似ている富裕な実業家で、健康ではあるが循環器にやや問題がある1200人の…

奥村康「「不良」長寿のすすめ」(2)

宝島社新書 2009年1月 以下は、「不良」のすすめとは関係のないまじめな医学的議論である。もっともあまり真面目にはとられないかもしれないが・・。 《コレステロール値は300まで放っておけ》 心臓の医者はコレステロールを徹底的に悪者視する。し…

奥村康「「不良」長寿のすすめ」(1)

宝島社新書 2009年1月 著者の奥村氏は免疫学者。臨床家ではないので、かえって制約がない分、臨床についていいたいことがいえることになり、それで「この本では羽目を外させていただきました」といっている。普段生きている世界なら当然である厳密な統…

中島梓「転移」

朝日新聞出版 2009年11月 中島梓氏の死にいたるまで一年弱の闘病記。 読んでいて気が重くなってきた。闘病記であるからではない。変な民間療法に走ったりすることもなく、急に回心して受洗するなどということもなく、闘病記としては(とてもおかしな言…

中井久夫「治療文化論」

岩波同時代ライブラリー 1990年 わたくしは一貫して素朴実在論論の信奉者であり続けてきたと思う。あるいは学問的には素朴実在論というのは正しくない言い方なのかもしれないが、自分のそとに自分とは関係なくモノがあるとする立場である。そうでない立…

「病の起源」1・2

NHK出版 2009年2月・3月 NHKスペシャルで放映された全6回の放送の内容を3回づつを2冊の本に収めたもの。(1)が睡眠時無呼吸症候群、骨と皮膚の病気、腰痛を、(2)が読字障害、糖尿病、アレルギーを収める。たまたま「腰痛」の番組をテレ…

M・リドレー「やわらかな遺伝子」(4)第4章「狂気と原因」

紀伊國屋書店 2004年5月 ナチスの蛮行が明らかになった1950年代以降、遺伝決定論の評判は地に落ちた。しかし精神医学の分野では、1900年ごろからすでにそうであった。クレペリンはその当時、脳の病理学的変化に精神疾患の原因をもとめるやりか…

養老孟司「卒業生インタビュー」

赤門学友会報 No.14 2009年2月 会報は、むこうが勝手に送ってくる15ページほどの小冊子で、普段は読まずに屑篭ゆきのなのだが、養老氏の名前がでていたので読んでみた。インタービューといっても、質問に答えるのではなく、勝手にしゃべっているよ…

鈴木公太郎「オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険」

新曜社 みすず書房 2008年9月 心理学にかかわる8つの広く流布している“神話”をとりあげたものである。 1)オオカミ少女はいなかった オオカミ少女の話はわたくしも知っているくらいだから有名なのであろう。それを信じていたかというと、これは教育の…

中井久夫「臨床瑣談」

みすず書房 2008年8月 中井久夫氏が「みすず」に不定期に連載している「臨床瑣談」の第1回から第6回までを収載したものである。その第5回の丸山ワクチンについての話が「毎日新聞」にとりあげられ話題になり、そのため、それについての問い合わせが…

中井久夫「日時計の影」

みすず書房 2008年11月 精神科医、中井久夫氏の第7エッセイ集。その中からいくつか。 「河合隼雄先生の対談集に寄せて」 河合氏と土居健郎氏、木村敏氏の3氏が一緒の食事の席に同席したことがるという。ユング心理学と精神分析と人間学の大家が同席…

吉本隆明 三好春樹「の現在進行形 介護の職人(PT)、吉本隆明に会いにいく」

春秋社 2000年10月 最近、必要あってリハビリ関連の本を少し読んでいる。この本はだいぶ以前に読んだものであるが、それで思い出して、引っぱりだしてきて読みかえしてみた。三好氏は作業療法士(PT)であるが、リハビリの専門家というよりも老人介…

高田和明「健康神話にだまされるな」

角川oneテーマ21 2008年6月 この前とりあげた岡田正彦氏の「がん検診の大罪」が、現在の医療には有効なものはほとんどない。だから日常生活の注意によって健康を増進しようというものであったのに対し、本書は日常生活の注意で健康にいいといわれ…

岡田正彦「がん検診の大罪」(終)

新潮選書 2008年7月 第5章「医療への過大な期待」とエピローグ「治療から予防へ」 これまでの章でみてきたように「ほとんどの医療に有効性が認められなかった(有効性とは特定の病気が予防でき総死亡も減少すること、と著者はする)」として、それでは…