読書備忘録

勢古浩爾「ぼくが真実を口にすると 吉本隆明88語」(1)

谷沢永一氏の「人間通」(1995 新潮社)を何となくぱらぱらと読んでいたら、この勢古氏の本(2011年 ちくま文庫)を思い出した。「人間通」は、組織の要となり世の礎となりうるための必要条件は「他人の心がわかることである」とする谷沢氏が、その…

千葉雅也「現代思想入門」(終) 「ポスト・ポスト構造主義」

この文章を書く関係で本棚をごそごそやっていたら、T・イーグルトンの「ポストモダニズムの幻想」が出て来た。1998年刊行だが、わたくしが持っているのは2003年刊の7刷。ポストモダン批判というのは結構売れるらしい。 さらに驚いたのは雑誌「現代…

千葉雅也 「現代思想入門」(8) 現代思想の作り方

第6章は「現代思想の作り方」と題されている。 本書がわかりにくい原因の一つが「現代思想」と「フランス現代思想」という二つの用語が使われていることにあると思う。 この章の冒頭ではこれまで「フランス現代思想」について説明がされてきたとされている…

千葉雅也 現代思想入門(7) 精神分析

第5章はそのはじめに「現代思想の前提としての精神分析」という項がおかれている。そして現代思想がわかりにくい原因の一つはラカンの精神分析が現代思想の前提になっているにもかかわらず、それがとてもむずかしいからだ、ということがいわれる。精神分析…

千葉雅哉「現代思想入門」(6) 「現代思想の源流―ニーチェ、フロイト、マルクス」

千葉氏はこの3人を現代思想の源流であるとする。この人選をみるとマルクス?だがそれは後でみるとして、ニーチェとフロイトを較べたら断然、ニーチェ>>フロイトであるように思うのだが、千葉氏(あるいは千葉氏をふくむ現代思想の陣営の人)は異様にフロイ…

千葉雅也 「現代思想入門」(5) フーコー

わたくしがフーコーというと想起するのは「パノプティコン」である。われわれはソフトな監視システムによって管理されているというようなことだったのかなと思っている。学校・軍隊・病院・家族などの近代の様々な制度はみなそうで、支配者が不可視化されて…

千葉雅也「現代思想入門」 4 ドゥルーズ

わたくしはどういう訳かドゥルーズの翻訳本を二冊もっている。 1986年刊の「アンチ・オイディプス」と1994年刊行の「千のプラトー」である。しかし読んだ形跡はほとんどない。あまりに難解でどこにも取り付く島がなかったのだろうと思う。 だからこ…

千葉雅也「現代思想入門」(3)デリダ

わたくしはデリダをまったく読んでいない。 千葉氏は「二項対立という見方では捉えられない具体性に向き合うというのが現代思想の一番の根幹であり、そういう考え方を打ち出したのがデリダである。それを現代思想では二項対立の「脱構築」と呼ぶのだ」とする…

千葉雅也「現代思想入門」(2)

さて、現代思想とは? 1) 秩序を強化する動きへの警戒心を持ち、秩序からズレるもの、すなわち「差異」に注目する。 2) それが今、人生の多様性を守るために必要だ。 というのが千葉氏のp14での論。 翻訳すれば、「俺が何しようと勝手だろ。いちいち…

千葉雅也 「現代思想入門」(1)

実はこの本をなんで購入したかをよく覚えていない。この頃アマゾンで本を買うことが多く、そうするとこの本もどうですかというのも出てきてついポチっとしてしまうことが多い。この本も新書だし、そんな高くないしということでポチっとしたのだろうと思う。 …

和田秀樹 鳥集徹 「東大医学部」

精神科医師である和田氏と医療ジャーナリストの鳥集氏との対談本である。 しかし何を論じたいのかが今一つよくわからない本だった。 例えば、表紙には「本物の「成功者」はどこにいる」とか「偏差値トップの超エリートコースを歩むのはどんな子どもで、どう…

走る人

最近、散歩をするようになって感じるのがジョギングというのだろうか走っている人がとても多いということである。時によると歩いているひとより走っている人の方が多いことさえある。 これはロコモティブ・シンドローム(高齢になって筋力の低下によって日常…

ピーター・ゲイの「モーツァルト」

碩学ピーター・ゲイの書いたモツアルト論ということで読んでみた。 基本的にモツアルトの伝記であるが、そこに適宜ゲイのモツアルト賛歌が挿入されるというような構成である。とにかくゲイが音楽好き、モツアルトの熱烈な賛美者であることだけはよくわかる本…

与那覇潤「繰り返されたルネサンス期の狂乱」(「Voice」令和3年2月号」

与那覇潤さんが、雑誌「Voice」2月号に、「繰り返されたルネサンス期の狂乱」という稿を寄せている。 氏はいう。2020年最大のテーマは「知性の敗北」であった。私たちがこの知の惨状を乗り越えるために必要なのは、無責任な「未来図のプレゼン」と…

アメリカ南部

現在、入院中なので、普段と違い、蔵書などを参照できない環境で書いている。それで、持ち込んだ本を読むしかない状況で、たまたま持ってきたピンカーの「人間の本性を考える 心は空白の石板か」(NHKブックス 2004年)を読んでいる。 以前読んだ時に…

岡田 暁生「音楽の危機 《第九》が歌えなくなった日」

本書の大部分は昨年の4月から5月にかけて、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてコンサートなどが次々に中止になっていった時期に書かれたということである。(最終章のみは6月後半) 著者はいわゆるクラシックの分野での評論に長年たずさわってきたかた…

三島由紀夫 没後50年

最近、書店にゆくと三島由紀夫関係の本が目立つなと思っていたら、今年は没後50年ということらしい。 もっとも多いといってもやや目立つ程度であるから、三島もかなり忘れられた作家になりつつあるということでもあるのかもしれない。 没後50年に敬意を…

熊代亨「健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて」

書店で偶然に見つけた本である。著者の名前も知らなかったが、ブロガーでもあるとあったので検索してみたら、氏の「シロクマの葛籠」というブログはいままで何回か目にしたことがあった。 本書を読んで第一に感じたのが、世代の違いということである。 著者…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(6)

第5章「どんな感染症にも向き合える心構えとは」 この章には、よく理解できないところが多かった。 「感染症と向き合う上でまず大切になるのは、『安心を求めない』ということです」という主張からはじまる。「安全」というものは現実に存在する、しかし「…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(5)

第4章は「新型コロナウイルスで日本社会は変わるか」と題されているのだが、やや羊頭狗肉の趣がなきにしもあらずで、その点について岩田氏の明確な主張がなされているとは必ずしも思えず、論点の列挙におわっているような印象をうけた。 岩田氏は日本の感染…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(4)

第三章「ダイヤモンド・プリンセスで起こっていたこと」は約60ページあり、本書で一番多くの紙数が割かれており、岩田氏がもっともいいたかった部分であろうと思われる。そしてそこでいわれるダイヤモンド・プリンセス号でおきていたことには、日本が持つ…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(3)

第二章「あなたができる感染症対策のイロハ」 主な感染経路は二つ。飛沫感染と接触感染。飛沫感染は患者がくしゃみとか咳をしたときに生じる水しぶきによって生じる感染。飛距離は2mくらい。接触感染は、患者から飛んだ飛沫が何かの表面につき、そこに別の…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(2)

本書での岩田氏の関心はかならずしも狭義の新型コロナウイルス感染の問題にはなく、この感染流行から露呈されてくる日本の抱える様々問題を指摘することにもあるように思うが、まず巻頭におかれた狭義の医学的論議から見ていく。1)ウイルスとは何か?: 専…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(1)

奥付では2020年4月20日刊になっているが、先々週から書店には並んでいたように思う。「あとがき」の日付は3月23日。出版を急いだため、口述したものから文章を起こしたものらしい。 「はじめに」、第一章「「コロナウイルス」って何ですか? 約35…

三浦雅士「石坂洋次郎の逆襲」(2)

渡部昇一氏の「戦後啓蒙のおわり・三島由紀夫」(「腐敗の時代」1975年 初出「諸君! 1974年12月号」)は三島由紀夫、特にその「鏡子の家」、を論じたものであるが、昭和35年(1960年)の日本社会党委員長浅沼稲次郎刺殺事件から稿を起こし…

三浦雅士「石坂洋次郎の逆襲」(1)

最近、書店で偶然みつけた本だが(本年1月28日に刊行)、とても面白かったので、しばらく、これについて、いくつか書いてみたいと思う。石坂洋二郎の小説群を「母系制」という視点から見直そうとしている本である。 しかし、困ったことが多くある。第一に…

ちくま学芸文庫版 加藤典洋「敗戦後論」の内田樹氏による解説

ちくま学芸文庫版の「敗戦後論」は2015年の刊行である。1997年に講談社より刊行された原著の出版から20年近くたっている。 本書には2005年刊のちくま文庫版「敗戦後論」に付された内田樹氏による「卑しい街の騎士」という解説と、2015年刊…

小熊英二「日本社会のしくみ」(2)第一章日本社会の「三つの生き方」

第1章 日本社会の「三つの生き方」 最初に「不安な個人、立ちすくむ国家」という2017年に「経産省若手プロジェクト」が作成した文書が紹介されている。随分と評判になったものらしいが、わたくしは知らなかった。これを知っただけでも、本書を読んだ意…

小熊英二「日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学」(1)

600ページ近い新書としては異例の厚さの本で、正直、非常に読みにくい。「雇用・教育・福祉の歴史社会学」という副題がつけられているが、主に論じられるのは雇用の問題で、新卒一括採用、年功序列、終身雇用といったいわゆる世界から見てかなり特異とさ…

浅田次郎「日本の「運命」について語ろう」

二時間位、汽車(死語?)に乗る機会があり、そのための読みものとして、駅の書店でもとめたもの。200ページくらいの薄い文庫本である。 随分と大きく構えたタイトルであるが、浅田氏の講演の記録である(ただし文字で読んでも違和感がないように編集され…